(068)中国の牛乳・乳製品マーケットをめぐる競争2018年2月2日
中国の牛乳・乳製品マーケットが急速に成長している。十分なコールド・チェーンがなく、これまで非常に非効率的で課題が多いとされてきた中国国内の生産・加工・流通構造に近代化の波が押し寄せている。
米国農務省が伝えた中国国家統計局の資料を見ると、農村部、都市部ともに過去20~30年の間に、牛乳・乳製品の消費量が大きく増加していることがわかる。
例えば、農村部では、1990年には1戸当たりの牛乳・乳製品の消費量が1.1kgであったものが、2015年には6.3kgになり、同じ期間に都市部では牛乳の消費量が4.6kgから17.1kgへと増加している。過去25年の平均成長率を計算してみると、農村部では107.2%、都市部では105.4%となる。
25年間平均して年率105~107%で伸びることも凄いが、特に伸びているのは過去10年間の農村部であり、これは平均成長率で108.2%となる。中国経済の成長率は2010年代に入り10%を割り込み、最近では7%弱になっているが、農村部の牛乳・乳製品の消費は依然として堅調であるというのが興味深い。
この結果、世界の牛乳・乳製品マーケットに占める中国のシェアも大きく上昇してきている。例えば、乳製品(バター、マーガリン、チーズ、ヨーグルトなど)の世界シェアは、かつて圧倒的に欧米諸国が多く、世界の半分程度を欧米が占めていた。中国は2000年代当初までは5%未満しかなかったが、現在では10%を超えるまでに拡大し、代わりに欧米のシェアが低下している。調乳製品(いわゆる粉ミルク)も同様である。中国のシェアはかつての10%程度から現在では40%をはるかに上回るレベルに上昇している。こうした状況を見て、米国農務省は、中国の乳製品マーケットは世界第3位、調乳製品マーケットは世界最大と認識しているようだ。問題は、現代日本人にこうした認識があるかどうか、である。
※ ※ ※
さて、拡大するマーケットがあれば、そこに何とか入り込みたいのはどこの国も同じである。中国のこの動きをどう見ているかを考えると世界の動きが見える。
例えば、2015年3月末でEUが牛乳生産割当を廃止したこと、そしてその当時の様々な議論を思い出してみたい。賛否両論があったと思うが、一般には「EU酪農部門の市場経済への対応力を向上させるため」ということが言われてきた。しかしながら、それが深く意図するところは、急成長する中国市場への参入であろう。
2014年から2016年に期間における中国の牛乳・乳製品マーケットへの参入状況を、EU、ニュージーランド、オーストラリア、米国といった主要輸出国別のシェアの推移で見ると、面白いくらい勝ち負けが明確に出ている。
中国政府当局は今後も概ね総需要の4分の3程度の牛乳・乳製品は国産で対応し、残りを輸入で調達する意向のようである。過去3年間の結果を見ると総金額は多少の変動があるものの、シェアではEUの独り勝ち、オーストラリアが安定、ニュージーランドと米国が大きく減少という結果である。
結果として、EUは国内需要を上回る大きな生産余剰分を、成長する中国マーケットに見事に吸収させたということになり、それを見越した上での戦略的な2015年の生産割当廃止、言い換えれば市場開拓を実施したと考えることができよう。
※ ※ ※
さて、同様な状況が日本で発生した際、わが国は成長する他国のマーケットへの参入の布石として大胆な国内改革が行うことが出来るだろうか。あるいは仮に国内改革を遂行するとしても、その先に何を目指しているのかが理解されているのだろうか。
どのような分野における改革であっても、それは本来、改革のための改革や後ろ向きの改革ではなく、将来の布石としての改革でなければならない。
冷めた眼で見ると、EUのしたたかさを再認識するとともに、今後の米国やニュージーランドの巻き返しがどうなるのかも極めて興味深い。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
【JA全農の若い力】家畜衛生研究所(3)病気や環境幅広く クリニック西日本分室 小川哲郎さん2025年9月18日
-
【石破首相退陣に思う】米増産は評価 国のテコ入れで農業守れ 参政党代表 神谷宗幣参議院議員2025年9月18日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】協同組合は生産者と消費者と国民全体を守る~農協人は原点に立ち返って踏ん張ろう2025年9月18日
-
「ひとめぼれ」3万1000円に 全農みやぎが追加払い オファーに応え集荷するため2025年9月18日
-
アケビの皮・間引き野菜・オカヒジキ【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第356回2025年9月18日
-
石川佳純の卓球教室「47都道府県サンクスツアー」三重県で開催 JA全農2025年9月18日
-
秋の交通安全キャンペーンを開始 FANTASTICS 八木勇征さん主演の新CM放映 特設サイトも公開 JA共済連2025年9月18日
-
西郷倉庫で25年産米入庫始まる JA鶴岡2025年9月18日
-
日本初・民間主導の再突入衛星「あおば」打ち上げ事業を支援 JA三井リース2025年9月18日
-
ドトールコーヒー監修アイスバー「ドトール キャラメルカフェラテ」新発売 協同乳業2025年9月18日
-
「らくのうプチマルシェ」28日に新宿で開催 全酪連2025年9月18日
-
埼玉県「スマート農業技術実演・展示会」参加者を募集2025年9月18日
-
「AGRI WEEK in F VILLAGE 2025」に協賛 食と農業を学ぶ秋の祭典 クボタ2025年9月18日
-
農家向け生成AI活用支援サービス「農業AI顧問」提供開始 農情人2025年9月18日
-
段ボール、堆肥、苗で不耕起栽培「ノーディグ菜園」を普及 日本ノーディグ協会2025年9月18日
-
深作農園「日本でいちばん大切にしたい会社」で「審査委員会特別賞」受賞2025年9月18日
-
果実のフードロス削減と農家支援「キリン 氷結mottainai キウイのたまご」セブン‐イレブン限定で新発売2025年9月18日
-
グローバル・インフラ・マネジメントからシリーズB資金調達 AGRIST2025年9月18日
-
利用者が講師に オンラインで「手前みそお披露目会」開催 パルシステム東京2025年9月18日
-
福島県に「コメリハード&グリーン船引店」10月1日に新規開店2025年9月18日