(074)米国の農場の「小規模化」2018年3月16日
一般的に、米国の農場に対して持つイメージの多くは大規模農場であり、益々規模拡大が進展しているのではないかという印象を持つ人がいたとしたら、それはイエスでもあり、ノーでもある。
もちろん、作物生産や畜産など多くの分野では過去何十年にもわたり経済合理性に基づく規模拡大が進展してきている。これはその通りである。
その一方で、米国農務省の広報誌には農業センサスの数字を元に「中点(midpoint)」という概念を元にした興味深い記事が出ている(注1)。 中学の数学の用語のようで恐縮だが、ここで言う「中点」とは全体生産量の半分に相当する位置にある農場の規模である。
例えば、トウモロコシの場合、1987年には少なくとも全米生産量の半分は200エーカー(約81ha)以下の農場により生産されていた。残りの半分は200エーカーを超える農場により生産されていたという。
この「中点」の規模は2012年には600エーカーに拡大している。綿花、コメ、大豆、小麦等の主要作物も増加しており、この限りでは規模拡大は着実に進展していることは間違いない。畑作物だけでなく、野菜・果樹等の大半でも同様の傾向が生じているし、畜産も一部を除き、例外ではない。
※ ※ ※
さて、気を付けなければいけない点は、米国の農地のうち作物の生産に向けられている部分は2012年では全体の43%に過ぎず、他に牧草地や放牧地が45%を占めることだ(残りは森林等)。
非常に興味深いことに、作物や野菜・果樹などの「中点」が増加してきているのに対し、牧草地や放牧地は逆の傾向を示している。
1987年には1万エーカー以上の牧草地や放牧地が全体の51%と過半数を占めており、1000エーカー未満は全体の15%であったが、2012年には1万エーカー以上の割合は44%に低下し、1000エーカー未満が22%へと増加している(注2)。
つまり、全体の約半分を占める畑作物や畜産の農場では大規模化が進み、同時に、ほぼ同規模の牧草地や放牧地では小規模化が進展、あるいは小規模農場が増加している。これは相反する方向が同時に出現している極めて興味深いトレンドである。
言い換えれば、現代の米国農業を見る場合、大規模化はあくまでも主要な畑作物や畜産における1つの強力な流れである。これを表とすれば、それと同じ程度に強いもう1つの流れとして、牧草地や放牧地の小規模化という異なるトレンドが出ていることを理解しておく必要がある。
※ ※ ※
何故、このようなことが起こるのか。
大規模化の背景の1つは技術の進歩である。それは以前記した「(037)グローバル化のパラドックスと秘書」という内容とも共通する。技術の進歩により、1人あるいは小規模な家族単位で管理可能な農場やオペレーションの内容が、20~30年前とは大きく変化してきている。
1つの例だが、農業は天候の影響を受けやすいとはいうものの、家禽あるいは豚の生産ですら、今では天候にはほとんど関係がない温湿度管理がなされた設備の中で行われている。さらに、ハウス栽培の野菜などは言うまでもない。これが大規模化への大きな推進力であり、農場の生産量や販売金額を見ても大規模化が顕著な傾向として現れている。
しかし、小規模な牧草地や放牧地が増加してきていることの背景については余り多くが語られていない。あるいは筆者も勉強不足であり目にしきれていない。
精査は必要だが、例えば、リタイヤしたビジネス・パーソンが小規模な牧場を購入して余生を過ごすことなどが増加しているのかもしれない。日本でも「田園回帰」や「定年帰農」という言葉がある。かなり前になるが、米国人の理想の余生の過ごし方は、小規模な牧場を購入し、のんびりと過ごすことであると聞いたことがある。そうすると、これは米国版「田園回帰」の例なのかもしれないなどと楽しく考えることもできるし、グローバル化とローカル化が同時進行している米国農業のリアルな側面を感じることができる。
注1:J. M. MacDonals and Robert A. Hope, "Examining Consolidation in U.S. Agriculture", Amber Waves, March14, 2018.
(2018年3月15日確認)
注2:前掲記事「農場規模別の牧草地および放牧地の割合推移」(2018年3月15日確認)
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日