農業者は資本家か2018年5月10日
これは、友人のZさんへの手紙を再録したものです。
内容は、新しい本の紹介です。この本は、ソ連の崩壊で社会主義は完全に否定されたという俗論の中で、いまどき珍しく、階級問題を主題にして、社会主義を論じた好著です。
この中で、著者は農業者を「旧中間階級」としています。だから、この本を読めば、農業者は、いまの日本の階級社会の中で、どのように位置づけられているか、が分かるというものです。
Z様
貴兄好みと思われる本を紹介します。暇をみて読んだらどうでしょうか。
橋本健二「新・日本の階級社会」です。講談社現代新書で304頁、900円なりです。専門学者を読者に想定した学術論文ではなく、一般の人たちを読者に想定したもので、手軽で分かり易いように工夫しています。しかし、学会の最高水準を保っている好著です。
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内容は、日本社会は、資本家階級、新中間階級、正規労働者階級、アンダークラス階級、旧中間階級の5つの階級で構成されるとして、それぞれの階級の経済状態、社会観、政治観、さらに政党支持の状況をも研究した結果です。
使った資料は、政治から独立した学者のグループが7817人の国民を調査対象にした独自のデータです。それに官庁のデータを補完的に駆使しています。
この克明な研究結果は、独自の大量データに基づいて、日本の社会構造についての、いくつかの新しい実証による貴重な知見を発表したものです。
* * *
さて、社会科学の用語としての「階級」は、マルクス主義を想起させます。この研究結果は、真正マルクス主義による社会分析の、最も近くに肉薄しています。私はそのように極めて高く評価します。
しかし、真正マルクス主義の神髄にまで到っていないのは、各階級の定義が真正でない、という点にあります。私が批判するとしたら、この1点だけです。
特に、資本家階級の定義に疑問があります。
また、労働者階級を3つに分けていますが、この3つに階級的な差異があるのか。
さらに、農業者、中小企業主などの旧中間階級は、労働者階級、資本家階級と、どのように関係しているか。ことに地主でもあり、資本家でもあり、労働者でもある農業者が、日本の資本主義社会の中で、歴史的、経済的、社会的および政治的に、どう位置づけられているのか。
もう1つ言えば、日本の資本家と、外国籍の資本家との関係はどうか。
これらについて、もう少し詳細な説明があれば、なお良かった、と思います。
* * *
これらは、この学者グループの歴史観の不分明さに起因します。
真正マルクス主義の歴史観は唯物史観ですが、この分析は唯物史観に立脚していないという点で、真正マルクス主義から逸脱しています。だからといって唯物史観を否定しているわけでもありません。いったいこの学者グループの歴史観はどういうものなのか読めません。この点が致命的な欠点です。
「読み」が足りないのでしょうか。より懇切な説明を期待して、次の著作を待ちたいと思います。
こうした批判点があるにもかかわらず、関連する分野の多くの人たちが熟読すべき好著だと思います。
* * *
追伸
せっかく紹介したのだから、せめて10頁くらいは読んでみてください。
それ以上読むばあい、ななめ読みにして、1時間程度で読み切るのもいいでしょう。
もちろん、時間をかけて精読するのが最善です。
森島
(2018.05.10)
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