【読書の楽しみ】第26回2018年5月14日
◎新井紀子
『AI vs 教科書が読めない子どもたち』
(東洋経済新報社、1620円)
人工知能が人間を超える日、などという言説があふれ返っています。でも著者は、AI技術がどんなに進んでも人間の知能に追いつくことはできないと断言します。それは、東大合格をめざす人工知能「東ロボくん」の開発者としてAIの弱点を痛感したからでもあります。
何より常識がないのです。常識は何億という例文を記憶させても対応しきれないもので「太郎はカレーが好き」と「太郎は花子が好き」の違いをコンピュータの論理に組み込むのは至難の業だとか。つまり読解力の欠如です。
とはいえAIによって仕事を代替されることが確実視される職業は枚挙にいとまがありません。問題はそれに対し若い世代の人たちがどのくらいの対抗力を持ちうるかです。
ところが本書は、標準的中高生がどの教科であれ、教科書に出てくる普通の文章を読解できない惨状を次々に紹介します。AIの読解力以下です。
AIによる失業、消滅する企業の続出、はてはAI恐慌もありうる、というのだから大変です。生徒たちが読解力をしっかり身につける教育をすることの重要性と、ロボットにできない仕事のアイデア紹介も。多くの親に読み、考えてもらいたい警世の書。ご家族の読解力、大丈夫ですか。
◎ステファノ・マンクーゾ
『植物は<未来>を知っている』
(NHK出版、2160円)
種子は移動しても植物は動けません。だから自分を守るためいろいろな工夫をします。動物に食べられては困る場合は擬態が効果的で、砂漠原産のリトープスというハマミズナ科の植物は石にそっくりですが、周りの色に似せた擬態ができるという優れものです。
でも擬態するには周りの状態を判断しなければなりません。著者によれば植物の表皮細胞にはなんとレンズの機能があるのだとか。それどころか植物には記憶力さえあるそうでオジギソウの実験でそれを証明している個所など見逃せません。
ほかにも運動能力、動物を操る能力など多彩な能力があり、かつ臓器が集中している動物よりも機能が分散しているためにかえって強い面もある、と。言われればそのとおり。分散は大事です。
著者はイタリアの農学教授。日本の農業関係者も、植物の賢さは日々実感しているはずと思うので、考察を集約して書物を上梓してもらえる日を楽しみにしたいと思います。なお鮮やかなカラー写真も本書の魅力です。
◎西谷格
『ルポ 中国「潜入バイト」日記』
(小学館新書、864円)
フリーライターの著者は中国滞在の経験が永く、中国語が堪能で、現地情報などを雑誌などに執筆してきたのですが、中国社会の内部に入り込んだルポを目的に短期間の潜入バイトを始めます。
上海の寿司店員、反日ドラマの日本兵役、パクリ遊園地でのピエロぬいぐるみ。そのほか婚活パーティや高級ホストクラブへも潜入し、日本へ戻って爆買いツアーのガイドや留学生寮の管理人をして中国人の素顔を多面的に描写しています。
あっけらかんとしたところとか、金銭感覚、さらには生活実態などが予想どおりだったり意外だったり、なかなか面白いルポに仕上がっています。それにしても彼らの衛生感覚のなさは極端です。
これでは中国での外食は絶対にお断りだし輸入食品も同じ。団体ツアーの食事や買い物のひどさの描写は、かつての日本人御一行様が体験したのと同じでしょう。とまれ中国と中国人を知る上で大いに参考になります。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
ナガエツルノゲイトウ防除、ドローンで鳥獣害対策 2025年農業技術10大ニュース(トピック1~5) 農水省2025年12月19日 -
ぶどう新品種「サニーハート」、海水から肥料原料を確保 2025年農業技術10大ニュース(トピック6~10) 農水省2025年12月19日 -
埼玉県幸手市とJA埼玉みずほ、JA全農が地域農業振興で協定締結2025年12月19日 -
国内最大級の園芸施設を設置 埼玉・幸手市で新規就農研修 全農2025年12月19日 -
【浜矩子が斬る! 日本経済】「経済関係に戦略性を持ち込むことなかれ」2025年12月19日 -
【農協時論】感性豊かに―知識プラス知恵 農的生活復権を 大日本報徳社社長 鷲山恭彦氏2025年12月19日 -
(466)なぜ多くのローカル・フードはローカリティ止まりなのか?【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年12月19日 -
福岡県産ブランドキウイフルーツ「博多甘熟娘」フェア 19日から開催 JA全農2025年12月19日 -
α世代の半数以上が農業を体験 農業は「社会の役に立つ」 JA共済連が調査結果公表2025年12月19日 -
「農・食の魅力を伝える」JAインスタコンテスト グランプリは、JAなごやとJA帯広大正2025年12月19日 -
農薬出荷数量は0.6%増、農薬出荷金額は5.5%増 2025年農薬年度出荷実績 クロップライフジャパン2025年12月19日 -
国内最多収品種「北陸193号」の収量性をさらに高めた次世代イネ系統を開発 国際農研2025年12月19日 -
酪農副産物の新たな可能性を探る「蒜山地域酪農拠点再構築コンソーシアム」設立2025年12月19日 -
有機農業セミナー第3弾「いま注目の菌根菌とその仲間たち」開催 農文協2025年12月19日 -
東京の多彩な食の魅力発信 東京都公式サイト「GO TOKYO Gourmet」公開2025年12月19日 -
岩手県滝沢市に「マルチハイブリッドシステム」世界で初めて導入 やまびこ2025年12月19日 -
「農林水産業みらいプロジェクト」2025年度助成 対象7事業を決定2025年12月19日 -
福岡市立城香中学校と恒例の「餅つき大会」開催 グリーンコープ生協ふくおか2025年12月19日 -
被災地「輪島市・珠洲市」の子どもたちへクリスマスプレゼント グリーンコープ2025年12月19日 -
笛吹市の配送拠点を開放「いばしょパル食堂」でコミュニティづくり パルシステム山梨 長野2025年12月19日


































