【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】輸出促進、GAP、検疫をめぐる議論の「真実」2018年6月14日
今回は、最近の講演録を基に、輸出に関連する議論の「真実」について考えてみたい。
最近は、今口を開けば、輸出、輸出と政治・行政サイドから輸出の掛け声が聞かれます。「輸出すれば、ばら色だ」と。輸出は大事です。農家の皆さんも頑張ってらっしゃると思いますけども、今、輸出で頑張っている農家の皆さんで、輸出でどれだけの所得が上がっていますか。相当に輸出を頑張っても、せいぜい所得の数%ですよね。
ところが、よく大臣などのパーティーでの挨拶は「日本の人口は1億2000万人が5000万人になるので、日本の中に市場はございません。だからこれから農業は、輸出産業として攻めていけばばら色の未来が開けています」といった論調です。どうして、これだけ単純に言えるのかと感心します。
経済官庁系の人の話をよくよく咀嚼してみると、輸出が伸ばせると何が良いかって、農家というより商社が儲かる。6次産業化の事業に力を入れるのも、農家でなく組む企業が儲かるといったように、少し視点が違う場合もありますので、注意が必要です。
大体、日本の人口が5000万になることを前提にして発言する政治家や人口問題の専門家が多いのには非常に違和感があります。大事なことは、5000万人にならないように、どうするかを考えることでしょう。出生率が少し上向けば、長期の人口予測は大幅に変わってくるのです。そのための施策を言わずして、日本には人間いなくなるかのような話はナンセンスです。
それから日欧EPAで、EUが関税撤廃してくれて、日本食ブームだからどんどん日本の食品の輸出が伸ばせるかのように言いますが、そんなわけにはいきません。例えば、象徴的なのは、ミラノ万博でのかつお節、かびが生えていてがんになるから使えないと拒否されました。
さらに、GAP(農業生産工程管理)の問題があります。今や、GAP、GAPと皆「取らなきゃいけない」と言っていますが、慎重に考えなきゃいけない側面もあります。例えば、グローバルGAP。ドイツの民間の会社が作ったユーレップGAPがグローバルGAPという名前になって、世界全体の標準GAPみたいに言われています。
しかも、グローバルGAP協会などは、「日本の皆さん、これ取らないとEUに輸出できませんよ」という感じで説明されているようですが、本当でしょうか。農水省が、EUの農家を調べたら、なんとEUでグローバルGAPに入っている畜産農家は0.1%もおりません。ドイツ、フランス、イギリスでは1戸も取得していない。
自分のところが1戸も取得していないようなものを、日本の農家は取らないと買ってやらないと言うなら、とんでもない非関税障壁だと思ったら、別にEUがそういうことを言っているのではなく、要は、日本の農家の皆さんにグローバルGAPに入ってもらって、登録料と更新料を得られるから言っているという側面があるのかもしれません。そういう側面については、慎重に対応しないといけないなと思います。
なお、GAPについては、GAPを環境直接支払いの補助金を受けるための要件とすることになりましたが、これも理論的には不整合な側面があります。環境直接支払いの考え方は、当然のレベルとして最低限、環境にはこれだけの配慮をしているというベースがある農家に対して、もう一段の高いレベルの環境に優しい農法を実践している人には環境直接支払いを支給します、ということです。
GAPには環境に関する側面もありますが、基本的には、安全な農業生産工程管理の遂行であり、標準的なレベルの環境への配慮を問うものではないと思いますので、少し違和感があります。
それから、検疫の問題について、付け加えますと、EUのかつお節だけでなく、例えば、中国は「日本の米にはカツオブシムシがいるから薫蒸しないと入れてやらない」と言っています。さらには、案の定というか、トランプ大統領と商務長官の電話が漏れてきて、「アメリカの食品に大腸菌が入っていたと言って、検疫で突っ返してくる日本はけしからんから、もっと脅して、検疫を緩めさせろ」というようなことを言っているのです。
そのアメリカが何やっているかというと、豚肉、鶏肉、鶏卵、柿、さくらんぼ、ぶとう、桃、かぼちゃ、トマト、ピーマン、キャベツ、葱、にんじんなど、数多くの日本の農産物を、虫がいるとか、病気になっているとか言って、米国が検疫で止めている実態がある。日本の検疫が厳しすぎると言いながら自身が日本農産物を締め出している米国、中国、EUなどの国々になぜ是正を厳しく求めないのか? 逆に、「日本の食の安全基準と検疫が世界で一番厳しすぎるから、もっと緩めろ」と言われて、日本は緩めさせられている。こんな外交をやっていて輸出を伸ばすのは至難の業です。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(159)-食料・農業・農村基本計画(1)-2025年9月13日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(76)【防除学習帖】第315回2025年9月13日
-
農薬の正しい使い方(49)【今さら聞けない営農情報】第315回2025年9月13日
-
【人事異動】JA全中(10月1日付)2025年9月12日
-
【注意報】野菜類、花き類、豆類にハスモンヨトウ 県内全域で多発のおそれ 兵庫県2025年9月12日
-
【注意報】果樹カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 佐賀県2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政も思い切りやってほしかった 立憲民主党農林漁業再生本部顧問・篠原孝衆議院議員2025年9月12日
-
【石破首相退陣に思う】破られた新しい政治への期待 国民民主党 舟山康江参議院議員2025年9月12日
-
【石破退陣に思う】農政でも「らしさ」出しきれず 衆議院農水委員会委員・やはた愛衆議院議員(れいわ新選組)2025年9月12日
-
ドローン映像解析とロボットトラクタで実証実験 労働時間削減と効率化を確認 JA帯広かわにし2025年9月12日
-
スマート農業の実践と課題を共有 音更町で研修会に150名参加2025年9月12日
-
【地域を診る】個性を生かした地域づくり 長野県栄村・高橋彦芳元村長の実践から学ぶ 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年9月12日
-
(452)「決定疲れ」の中での選択【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年9月12日
-
秋の味覚「やまが和栗」出荷開始 JA鹿本2025年9月12日
-
「令和7年台風第15号」農業経営収入保険の支払い期限を延長 NOSAI全国連2025年9月12日
-
成長軌道の豆乳市場「豆乳の日」前に説明会を実施 日本豆乳協会2025年9月12日
-
スマート農園を社会実装「品川ソーシャルイノベーションアクセラレーター」に採択 OYASAI2025年9月12日
-
ご当地チューハイ「寶CRAFT」<大阪泉北レモン>新発売 宝酒造2025年9月12日
-
「卵フェスin池袋2025」食べ放題チケット最終販売開始 日本たまごかけごはん研究所2025年9月12日
-
「日本酒イベントカレンダー 2025年9月版」発表 日本酒造組合中央会2025年9月12日