【浅野純次・読書の楽しみ】第27回2018年6月17日
◎山崎雅弘
『戦前回帰 ―「大日本病」の再発』
(朝日文庫、928円)
1900万人ものアジアの人々が亡くなった日中戦争や太平洋戦争はなぜ起こり、なぜ焦土となるまで停戦できなかったのか。軍国主義や軍部の独走に責任を押し付けて終わりという、一般的に見られるやや安易な結論に本書は否定的です。
問題は国家神道体制と「国体明徴」運動にありました。「国体」護持という国家的戦略のもとで、己を捨てれば、死んでも魂は靖国に戻ってこられると信じ込まされた結果、兵士の命が軽んじられたのだというのです。
国民個々人が独立した思考と価値を持つ個人主義は全面排除された時代。個が否定され、兵士から「生き延びる」という選択肢を奪ったのがその「国体思想」だったのだと。
敗戦後、GHQは国家神道や国体思想を徹底的に排除します。しかし今、安倍政権による「戦前回帰」が見られるということで、書名はつけられました。
具体的には国家神道を称揚する日本会議、憲法改正への動き、「伊勢神宮」サミット、天皇の生前退位問題、教育勅語の復活など、戦前さながらの価値観政治が俎上に乗せられます。これらを個別の動きとして見ていては適切に対応しえないと著者は警告します。「戦前」復活の流れに対し手遅れとならないため見逃せない一冊です。
◎福田直子
『デジタル・ポピュリズム』
(集英社新書、799円)
朝から夜中までスマホを操作し続けている間に私たちの個人情報が蓄積され、企業や政党や団体がそのビッグデータを勝手に利用しているというのが最近のネット社会だそうです。油断できない時代になりました。
本書はそうしたネット情報の扱われ方の驚くべき実態を紹介しています。米国大統領選とイギリスのEU離脱キャンペーンで酷似したデジタル戦略が存在したというのもその一つ。CAという会社が、同一のソフトと膨大なネット上のデータによって、トランプ勝利とBREXITに貢献した(そして大儲けした)そうです。
これからの政治、社会、経済はネット上のビッグデータと解析と心理作戦によって左右されていくと著者は断言しています。
ネット上にあふれ返るフェイク情報や「いいね!」の投票なども、ボットと呼ばれる自動投稿プログラムによって操作されているのだとか。スマホを楽しむだけでなく、ネットの怖い現実も本書によって知っておくことは必須だと思いますよ。
◎山崎章郎
『「在宅ホスピス」という仕組み』
(新潮選書、1404円)
ホスピスってご存じでしょうか。死期の近い病人や老人を医療、精神面で支える施設のことですが、著者は医師でホスピスの専門家です。実際に都下小平市でホスピスケアに取り組んでいます。
病院での終末はチューブにつながれ検査、注射、点滴と、意識もないままにただ延命作業の対象となってしまい、家族も振り回されてしまう。でもそんな状態で少々延命されるより、自宅で痛み止めは必須として尊厳をもって死を迎えるほうがよほどいい、という立場から、どのような仕組みを構築したら在宅看取りが可能になるかが主要な論点です。
登場する実例は感動的なものが多く、わが家も明るい終末を迎える準備を早めにしておきたいと痛切に感じさせられました。
したがって高齢者、病者、その家族には必読書であり、「死」を考える上でも好適です。なお介護施設に入っても最後は病院へ送り出されてしまうのが普通だそうです。念のため。
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