【城山のぶお・リメイクJA】第2回 インナー政治の虚構2018年8月24日
インナーとは、特定業界における自民党の専門家集団のことで、農業分野では、農業・農協問題に精通した自民党議員の専門家集団のことをいう。今次農協改革で力を発揮したのは自民党のインナー政治であり、農協改革緒戦の戦いで惨敗を喫した原因の一つがインナー政治であった。
インナー政治の功罪はいろいろ考えられるが、そのもっとも大きな弊害は、平時はともかく、変革期においては、インナーが政府与党とりわけ官邸の政策のお先棒を担がされることだ。
2014年5月14日、政府の規制改革会議・農業ワーキンググループは「農業改革に関する意見」を公表した。内容は中央会制度の廃止、JA信用事業の農林中金への移管、准組合員の事業利用制限など衝撃的なもので、政府はこの内容をもとに6月24日、「規制改革実施計画」を閣議決定した。
この「意見」に対して、自民党から激しい反発の声が上がり、5月21日「新農政における農協の役割に関する検討プロジエクトチーム」などの合同会議が開かれ、議論の結果、対応はインナーと呼ばれるごく少数の農林族幹部の協議に委ねられることになった。不透明な密室議論の始まりだった。
インナーメンバーは、森山裕、中谷元、西川公也、宮腰光寛、斎藤健、野村哲郎などと言われ、JAにも理解のある自民党なりの最強シフトであった。
※ ※ ※
農協改革緒戦の戦いは、2014年5月21日から2015年2月8日まで自民党インナーを軸に進められた。周知のように、2月8日は、JAグループが、政府から中央会制度の廃止か准組合員の事業利用規制をとるかの王手飛車取りに会い、中央会制度の廃止を認めた敗北の日である。
この僅か9か月にも満たない期間に、戦後のJA運動を牽引してきた中央会制度が廃止され、また計理士法・公認会計士監査とほぼ同じ長さの歴史を持つ、産業組合中央会監査以来の中央会監査も廃止されることになったことは驚愕に値する。しかもそれは、農協法改正の国会審議前のことであり、国会審議を経ずしてすべてが決まってしまったのである。インナー政治の力、まさに恐るべしであった。
6月24日の「規制改革実施計画」の閣議決定以降、全中は有識者会議を開き、また総合審議会などを開催して、11月6日に「JAグループの自己改革」をまとめた。
政府は対外的には、自己改革はJA自ら行うものなどと建前を述べていたが、JAが行う自己改革などは、最初から眼中になかった。この年、少なくとも秋口までには、当時の農水省の皆川芳嗣事務次官からJA全中万歳章会長に中央会監査の廃止が通告されていたことがそのことを物語る。
中央会監査の廃止通告がされた段階で、全中はこれを広く組合員討議にかけ、全国的な反対運動を展開することができたし、そのようにすべき大きな問題だった。だが、そのような方向はとられなかった。
もちろん、正規の会長会議などの必要な手続きはとられたが、それはあくまでも政府提案を容認することが前提だった。なぜ、この重要問題に、組合員討議はおろか全国の組合長会議を開催するなど、全国的な反対運動を展開できなかったのか。
※ ※ ※
今後のJA運動にとって、いずれこの間の事情の歴史的検証が必要とされるが、それはともかく、JAグループは、自民党インナーにすべてを委ねる道を選んだのである。結果は前述の通りで、全中は今次農協改革で、中央会・監査制度の廃止という歴史に残る大敗北を喫した。だがこれを、すべて自民党・官邸のせいにするわけにはいかない。
JA内にはまさかそのようなことを政府がやるはずがない、かりにそこまで政府が考えるなら受け入れることはやむを得ないのではという、およそ協同組合として主体性のない意識があったのではないか。協同組合にとって政党・政治家は利用すべきものであって、利用されるべきものであってはならない。協同組合運動は単なるお題目ではないのだ。
参考:飯田康道「JA解体」東洋経済新報社刊(2015年)。
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