【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第20回 戦争と農業、農村、食料2018年9月20日
前々回触れた日本の満州侵略は当然のことながら中国の人たちの激しい抵抗を招き、また世界各国の反発を招いた。しかし、日本はそれを反省するどころか日中戦争を始めて支配を中国全土に及ぼそうとし、さらにはアジア諸国全体に植民地支配をひろげるべく太平洋戦争に突入した。
その戦争の遂行のために、これまで年齢や体力からして兵士として招集されなかった男まで徴兵され、さらに軍事物資の生産のために徴用され。それで人手不足となった。それは兵士の補充にも差し支える。そこで言われたのが「産めよ 殖やせよ」だった。そして10人子どもを産んだ母親が表彰された。
これまでは人口が多すぎるからお国が困る、みんなも困ると言ってきたのだが、今度はお国のために人口をもっと増やせというのである。
戦後はまた、日本には過剰人口が多すぎる、だから困るのだと言われるようになり、私たち世代は子どもはあまり産むなと言われたものだった。ところが、最近になってまたもや「国民はお国のためにもっと子どもを産み育てよ」と政治屋が言うようになっているようだ。どうも子どもは「お国のため」につくったり、つくらなかったりすべきもののようである。
そのことについてはまた後で述べるとして、こうした満州移民政策、そして戦争は農村に、農業にどんな結果をもたらしたのだろうか。本当にそれで楽になったのだろうか。
むらの若い男のほとんどは戦争に引っ張って行かれた。中核的な担い手となっている男も再招集されて戦地に行かされた。あるいは軍需産業や飛行場建設などにも徴用された。残された女性は大変だった。男手がないとやっていけない厳しい労働がすべて女性の肩にかかったからである。
戦争が終わって男が戻ってきたものはまだいいとして、戻ってこない場合はさらに悲惨だった。
日清、日露、そして太平洋戦争を体験し、父を、夫をそして子どもを戦場に送った岩手のある農家のおばあさんが次のように語ったという。
「ななたび(七度)のけがち(飢饉)に遭おうとも
ひとたび(一度)の戦争には遭うな」
女性にとって異常気象よりも戦争が怖かったのだ。
戦争遂行のために食糧増産をと政府は言ったが、今言った労力不足に加えての大豆粕の輸入途絶、軍需物資生産のための農業資材や生活資材の生産の縮小という面からもそれはきわめて難しく、増産どころか減産にならざるを得なかった。そして都市は空襲に加えての食料難で壊滅寸前となり、こうした人たちを疎開等で農村が受け入れることで農村部の食料も足りなくなった。
一方国外では戦闘で多くの兵士が死に、国内は空襲で、沖縄の場合は戦闘で多くの人命が失われ、国土は焦土と化し、国民は困苦のどん底に陥れられた(日本が侵略した国に対してはそれ以上の被害を与えたのだが)。
満蒙開拓移民が、どんなに苦労したか、敗戦時の引き揚げのときの話などを聞くたびに胸が苦しくなったものだった。亡くなった人もたくさんいた。子どもを置き去りにするよりほかない人たちもいた。引き揚げの話を絶対にしない人もいた。話せないほどの、脳裏に残しておきたくないほどの苦労を、いやな思いをさせられたのである。
それでも何とか引揚げてきたら、日本は食糧難におちいっていた。敗戦の年はひどい凶作に見舞われたからなおのこと、戦地や満蒙からの引き揚げによる人口増加はそれにさらに拍車をかけた。日本人はまさに飢餓状態に陥れられたのである。
(前々回の記事)
・第18回 「農村過剰人口」と大豆と満蒙移民(18.09.06)
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
酒井惇一(東北大学名誉教授)のコラム【昔の農村・今の世の中】
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県内全域で多発のおそれ 石川県2025年7月4日
-
(442)エーカレッジ(作付面積)から見る変化【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年7月4日
-
【JA人事】JAながさき県央(長崎県)里山耕治組合長を再任(6月27日)2025年7月4日
-
人的資本を人事制度で具体化する 「令和7年度 人事制度改善セミナー」開催 JA全中2025年7月4日
-
洋菓子のコロンバン主催「全国いちご選手権」あまりんが4連覇達成2025年7月4日
-
野菜わなげや野菜つり 遊んで学ぶ「おいしいこども縁日」道の駅とよはしで開催2025年7月4日
-
北海道初進出「北海道伊達生産センター」完成 村上農園2025年7月4日
-
震災乗り越え健康な親鶏を飼育 宮城のたまご生産を利用者が監査 パルシステム東京2025年7月4日
-
神奈川県職員採用「農政技術(森林)経験者」受験申し込み受付中2025年7月4日
-
神奈川県職員採用「獣医師(家畜保健衛生分野)経験者」受験申し込み受付中2025年7月4日
-
信州の味が集結 JA全農長野×ファミマ共同開発商品 長野県知事に紹介2025年7月4日
-
障害者のやりがい・働きがい・生きがい「ガチャタマ」で応援 パルシステム埼玉2025年7月4日
-
参議院選挙に行ってとんかつ割引「選挙割り」実施 平田牧場2025年7月4日
-
作物と微生物の多様な共生が拓く農業の未来 意見論文が米国植物科学誌に掲載 国際農研2025年7月4日
-
国産率100%肥料の商品を販売開始 グリーンコープ共同体2025年7月4日
-
3.11原発事故の被災者支援 2025年度は20団体へ624万円 パルシステム連合会2025年7月4日
-
「令和の米騒動」農家がリアルに考えた米の適正価格とは『現代農業』発売 農文協2025年7月4日
-
完熟桃の美味しさ存分に ヴィーガンパフェと贅沢スムージー 期間限定で登場 青木フルーツ2025年7月4日
-
【特殊報】ブロッコリーの黒すす症状 県内で初めて確認 愛知県2025年7月3日
-
【注意報】斑点米カメムシ類 県下全域で多発のおそれ 富山県2025年7月3日