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コラム:正義派の農政論

【森島 賢】

2018.10.15 
【森島 賢・正義派の農政論】自由貿易のたそがれ一覧へ

 安倍晋三首相が勝手に名付け、国際的に認知されていないTAG、つまり実質的なFTAの交渉が米国との間で始まった。
 首相は、FTAをTAGと偽り、またしても口先だけの言葉で誤魔化して公約を破り、国民を騙して信用を失っている。そして米国は、日本が農業を犠牲にする見返りとして、交渉中は自動車に対する高率関税を猶予するようだ。
 これは米国の得意な砲艦外交である。東京湾に砲艦を浮かべ、大砲の照準を江戸城本丸、つまり自動車に合わせて、農産物貿易交渉で譲歩を迫っている。首相は、自動車のために農業を犠牲にして、国民の信用失墜を重ねるのだろうか。
 トランプ大統領は、自動車の大量輸入は、国家安全保障にとって由々しき問題だから減らしたいという。そのために各国からの輸入車に対して高率関税をかけている。輸入車を減らして、国内での生産を拡大することで、生産技術を高め、その技術を使って、安全保障のための武器の性能を高めたいというのだ。それと同時に、国内の雇用を増やそうと考えている。

 これは、自由を標榜し、自由貿易の旗頭のように振る舞っている米国の鉄面皮な行いである。これは、自由貿易ではない。武力、つまり暴力を背景にした、ならず者の押し売りである。ならず者国家の砲艦外交である。以前、米国は北朝鮮などを、ならず者国家と罵ったが、いまや米国自身が、ならず者国家に成り下がった。
 米国は、自由の旗印を巻いて引き下がったらどうか。多くの米国民は、自由貿易体制によって塗炭の苦しみに喘いでいるのだから。自由貿易体制のもとで、中間層が没落し、格差社会の広がりに呻吟している弱者は、大統領のこの政策を熱烈に支持しているのだから。

 

 

 怖いものなしのトランプ大統領ではあるが、国民の不支持は怖いようだ。国民の不支持によって、つぎの大統領選挙で落選し、権力を失うことが何よりも怖い。ことに自由貿易体制によって、格差社会の底辺に追い落とされた、国民の圧倒的多数である弱者たちの支持は失いたくない。だから、大統領は立派な民主主義者である。そして、そのようにさせた原動力は、中間層から追い落とされ、格差社会の底辺で呻吟している弱者たちの力である。
 この際、大統領は自由貿易の旗を降ろして、多くの欧州諸国のように公正貿易という旗を掲げ、自由貿易に反対の旗幟を鮮明に示したらどうか。安全保障という最も重要な国家主権を守るという理由は、少し無理筋とも思えるが、立派な理由である。
 そうすれば、弱者からの堅固な支持が、これからも続くだろう。
 大統領は、就任直後にTPPからの脱退を決めた。そうして、多くの弱者からの支持を得た、という実績がある。

 

 

 米国の建国の崇高な理想は、自由と民主主義ではなかったか。その自由と民主主義が、弱者と強者の間で大きく揺らいでいる。
 トランプ大統領は、国民の大多数の弱者の支持を得たいと考えている。つまり、建国以来の弱者のための民主主義を守ろうとしている。だから、一握りの強者からは激しい非難中傷を浴びている。
 自由はどうか。建国以来の自由を捨てようとしているのか。そうではない。大統領が捨てようとしているのは、一握りの強者のための自由である。一握りの強者が大多数の弱者を搾取する自由である。大統領はそれを、かなぐり捨てて、建国以来、追い求めてきた、弱者が搾取から自分自身を解放する自由を守ろうとしている。
 だから、弱者からは熱烈な支持を得ている。しかし、強者からは蛇蝎のように嫌われている。

 

 

 ひるがえって、日本はどうか。
 日本の強者は、米国の強者に追随し、強者のための自由を守ろうとして、自由の使徒のように振る舞っている。FTAをTAGなどと偽って、強者の側の自動車産業のために、弱者の側の農業を犠牲にしようとしている。これは、弱者のための自由貿易でないどころか、強者のための自由貿易でさえない。まぎれもなく、強者のための管理貿易である。
 問題は、自由貿易か管理貿易か、だけではない。自動車への高率関税を発端にした米国と中国の間の貿易紛争の一環である。その奥にあるものは、両国間の知的所有権をめぐる、また、中国へ進出した米国巨大企業の営業の自由、つまり、世界規模での搾取の自由についての、両国間の抗争である。両国間の政治・経済体制の根幹にかかわる抗争である。そして、さらにその奥にあるものは、世界の弱者と世界の強者との間の抗争である。
 その中で、日本はどの立ち位置に立つのか。それがいま、厳しく問われている。
 そしてそれは、来年の参議院選挙での深奥にある鋭い争点である。この争点を、農業者は刮目して見ている。
(2018.10.15)

(前回 立憲、国民は保守政党か

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