【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(104)軸足はどこか2018年10月26日
同じ対象を見る時に、どこに軸足を置くかにより物事の見え方は異なる。農業の世界ではこれが意外に多い。そもそも農業を「農業」として見るのか、以前にこのコラムでも述べたようにモジュール化し、ある一部分だけを取り出して、例えば、食料を作る食品産業の一部、また徹底的に突き詰めればより大きな枠でとらえた製造業として見るかにより、様々な課題へのアプローチは微妙に異なる。
環境問題も同様かもしれない。地域振興あるいは利益獲得のために産業を興そうとする立場と、地域の自然や環境を守ろうとする立場では主義も主張も異なる。利便性を求めるか、不便でもそれを理解した上で古い仕組みや商品を使うかなどになると、これはさらに難しい。ある問題に対して極めて保守的な人や組織が、異なる問題に対しては全く逆の主張を行うこともある。人間はそれほど合理的な行動のみで動くわけではない。
物事に対し、何が起ころうとも変わらない一貫した真実を追求する立場を科学的に是とする学者・研究者ですら、姿勢を貫き通して頂点まで上りつめることもあれば、変化する時勢の流れの中を巧みに泳ぐことが一貫しているケースもある。
学問分野では、農業経営学者はあくまでも農業経営学者であり、いわゆる経営学者ではないと考えるか、基本は経営学者であり、その中で農業を研究対象としていると考えるかなど、例を挙げればきりがない。
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こうした問題を解決する「考え方」として使われるものに、何が「正しい」かというアプローチがある。「正しい」「間違っている」の二分法は分かりやすい反面、実は極めて重要なことを見落としている。
以前のコラムでは「正しい」と「間違っている」に対し、「良い」と「悪い」という道徳に基づく軸を交差させたマトリックスによる思考法を紹介したが、最近「良い」と「悪い」は「幸せ」か「不幸せ」かに置き換えた方が適切かもしれないと考えている。
例えば、「お金」を儲けることは「正しい」ことであり、多くの場合「幸せ」に繋がるが、「お金」があっても「幸せ」ではないこともある。あるいは「お金」があったために「不幸せ」になるケースもあるだろう。どうも最近、世の中の多くで「正しければ全てが解決される」というような風潮が出てきている気がするのは年齢のせいだろうか。
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さて、農業に限らず最近の日本ではあらゆる現場で人手が足りない。足りない部分は補えば良い。どこから補うかを考えれば、高齢者、女性、外国人、あるいはAI...ということになり、人手不足を補充するために様々な動きがあるようだ。
需要と供給は一時的にバランスが崩れても、いずれ「見えざる手」により収束するのであろうが、その「いずれ」が到来する前には一定の変動が起こる。具体的には、「人手不足」と「人余り」が何度か繰り返されるはずだ。
「人手不足」の対策は、短期的な補充という視点だけでなく、その次の段階に生じるであろう「人余り」への対策をも意識した上で行わなければならない。だが、これが現場で意識されることは少ない。現場は目の前の「今」を乗り切るのに必死だからだ。このため、本当の長期的対策は現場から離れた国や地方自治体などがしっかりと考えておくべきである。
アクセルとブレーキのタイミングを間違えれば大事故になる。例えば、ヨーロッパにおける移民政策の結果生じた様々な課題はまさに他山の石である。成功も失敗も先進事例に学ぶことは数多くある。
事例をそのまま受け入れるのではなく、日本農業の将来を考え、我が国なりの仕組みに作り直すことだ。その際に必要な「軸足」は、やはり食料・農業・農村という基本的視点ではないかと考える。
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