【城山のぶお・リメイクJA】第12回 制度としてのJAの終焉2018年11月2日
戦後70年、日本の高度経済成長にとって、農業は重要な役割を果たしてきた。戦後の食糧難の時代にはコメの増産・供出が行われたし、その後の経済成長のため農村から都市へ良質な労働力の供給が行われた。
また、都市への人口集中に伴い宅地の需要が増え、多くの農地が宅地に転換された。この間の事情を、米価闘争で名を残した全国農協中央会の宮脇朝男会長は、戦後、農家は国から米をとられ、労働力をとられ、さらに農地をとられたと訴え農協運動を鼓舞した。
高度経済成長期に、JAは総評、医師会とともに日本の3大圧力団体として並び称され存在感を示したが、今ではそれは遠い過去のものとなった。
こうした時代の変遷に対応しJAは食料増産・供出に協力し、その後の農業・農村を支えた食管制度の仕組みを支える組織として大きな役割を果たしてきた。とくに、食管制度の時代には、政府買い入れ米の代金が農林中央金庫を通じてJAの組合員の貯金口座に振り込まれた事情から、信用事業を兼営する総合JAは極めて好都合な存在として機能した。
また、1970年から総合農政のもと、本格的な米の生産調整が始まるが、生産調整は国・都道府県・市町村とJAが一体となって進めることが必要なことから、引き続きJAは農政推進上の重要な役割を果たすことになった。
このように見てくると、政府にとってJAはなくてはならない存在であり、その機能を農業政策に生かすため政府はJAと二人三脚で歩みを進めてきた。
だが、食管制度は廃止され、その後、半世紀にわたって続けられてきた米の生産調整も2018年をもって廃止されることになった。
この結果、国・都道府県・市町村、JAが一体となって進めるコメの生産調整のために必要とされた、一地域一JAの原則も崩され、同一地域に複数のJAの設立も可能となった。
また、都市農地の位置づけも、「都市農業振興基本法」の制定に見られるように、人口減や都市一極集中是正等のため、従来の農地から宅地への転換政策から、農地を農地として評価する方向へと転換している。
要するに、農業・農地政策等の転換により、国の政策遂行にとってJAの存在はその必要性が著しく低くなってきているのである。
その象徴が、今次農協改革の最大の目玉であった中央会制度の廃止である。中央会制度は、国策遂行のため当時の農林省の別動隊としてつくられた感の強い組織であり、JAは中央会の指導のもと大きく発展してきた。
だが、中央会制度の廃止により、政府がJAを政策遂行の手段として重要視するという蜜月関係は終わりをつげた。これが今次農協改革の最大のテーマであり、特徴である。
中央会制度の廃止により、一つの時代が終わりJAは文字通り、自主・自立の新しいJA運動を展開しなければならない時代に入ったのであり、われわれにはそうしたことへの明確な意識転換が求められている。
こうした背景には、農業を産業として育成しようとする政府の一貫した姿勢があり、加えて、近年では競争一辺倒の新自由主義の考え方が色濃く反映されてものとなってきており、JAは政府にとって必ずしも適切なパートナーとはみなされなくなってきたという事情がある。
農業政策は、産業政策とともに地域政策が必要なことは、食料・農業・農村基本法でも明確にされており、今後とも地域と協同を旨とするJAが果たす役割は大きい。
だが、以上を踏まえれば、これからの運動は、従来のように閉鎖的な政・官・JAのトライアングルの中で課題解決をはかろうとする姿勢では、成果を上げることはできないことが明らかである。
いま、日本農業・農村は、TPP、日欧EPA交渉の締結・発効などによる農畜産物のかってない規模での市場開放、競争重視の偏重な農業政策のもと崩壊の危機に立たされている。
こうした状況のもと、食料の安全保障や食料主権確立の運動が求められているが、それは従来のように、政府・国会対策のみでは限界があり、広く国民を視野に入れた開かれたJA運動の展開が求められている。
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