【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第27回 「子孫に美田を残さず」の国へ(3)2018年11月8日
格差はさらに広がり、最終的には戦争のできる国、する国になっていく一方で、美田や美林がさらになくなっていく。今政治経済の中枢を握っている人たちは「一般庶民の子孫のために美田を残さず」の精神で行こうともしているからだ。本当にそんなことでいいのだろうか。これで文字通りの「美しい国」などできるのだろうか。
大企業に農林漁業をまかせ、大規模経営をいとなめばいいのだ、そうすれば美田、美林、美しい海は維持できると財界やマスコミはいう。
しかし、企業はもうからないところには投資をしない。したがってたとえば山間傾斜地の農地などで農業などするわけはない。百年後二百年後のことを考えて植林をし、育林をしていくなどということも考えない。彼らにまかせたら中山間地のほとんどは荒廃するだけだ。
平坦部も同様、もうからないとなれば簡単に耕作放棄、管理放棄、さらには農外転用する。
農家はもうからなくとも子孫のためにとがんばり、何とかこれまで農業を、農地を維持してきたが、資本には農業や農村をまもるなどと言う意識はとくにない。もうからなくなれば簡単に農業から資本を引き揚げ、他の部門に投下する。あるいはもうけの出る外国に経営を移転し、そこで農業をやり、日本に輸出することになる。他の部門ではいわゆる海外移転ですでにそうしており、農業でもそうしようというわけだ。財界やマスコミの一部はそれを煽る、「外国の土地を買え」、そして農業をやり、日本の食料を確保しろ、そのためにも自由に貿易ができるTPP・FTAをやれと。
このような農外資本に農業をやらせたらますます農地が荒れるだけ、農山村には家々の灯もなくなり、まさに「真っ暗闇」になってしまう。
企業が農地を手に入れることを可能にするということは日本の美田を外国籍の企業が買って低賃金の外国人労働力を雇って稲作をいとなみ、そこで生産した米を外国の金持ちに高く売ることができるようにすることでもある。すると日本人は、日本などの企業が外国で生産して輸入した安い米を買って食べざるを得なくなる。こんな変な世の中になるのではなかろうか。
最近は漁業権を企業に与えるようにするとまで言う。日本の豊かな美しい海はどうなるのだろうか。
戦後東京に出てきた人たちが新しく作った家庭のなかには三世代目、四世代目を迎えているものがいる。この子たちにとっての故郷は東京などの大都会になってしまった。祖父母などの故郷はもう実感として感じないところとなりつつある。美田、美林などについてはもちろん農林漁業、農山漁村に、さらには食にすら無関心となりつつある。こうした状況を利用して、政財界は農林漁業切り捨てを進めてきた。そしてこれからも進めようとしている。これが怖い。
国としては「子孫に美田を残さず」、金持ちは「子孫に美田を残す」、今世の中はこう進みつつある。でもこれはやはりおかしいのではなかろうか。国は子孫に美田、美林を残し、日本の故郷を残してやるべきなのではなかろうか。何とかしたいものだ。
それにしても何でこんな状況になってしまったのだろうか。これからどうすればいいのだろうか。敗戦から四分の三世紀、この間の農業、農村の変化をこれからたどりながら、改めてそれを考えてみたい。
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