【浅野純次・読書の楽しみ】第32回2018年11月16日
◎鈴木智彦
『サカナとヤクザ』
(小学館、1728円)
漁業と暴力団はしばしば深いかかわりがあるようです。特に密漁となると違法な世界だけに暴力団が介入してくる可能性が高いのだとか。本書は暴力団の取材で実績のあるフリーライターが、ノウハウや人脈を活かして有力漁港の裏側を活写した貴重な記録です。
三陸アワビ、北海道のナマコとカニ、ウナギの国際密輸シンジケート(台湾から香港へ)など、どれも暴力団の影がちらつきます。
「暴力の港」銚子の章はかつて悪名を馳せた高寅一家をめぐる抗争。そしてソ連のスパイとなって密漁を続けたいわゆるルポ船の話を中心にした根室の歴史。どちらも戦後史の一駒ですが、根室は日本屈指の漁場をソ連に奪われた漁民たちの悲哀が背景にあり、ヤクザより北方領土が主役というべきでしょう。
魚種、漁場、禁猟期、稚魚など密漁とみなされる漁業がいかに多いかと考えれば、そこには暴力団が介入する余地が必然的に生まれてこざるをえないということになります。
なお表向きは暴力団排除へ動いている築地市場の潜入ルポも生き生きとしていて、どの章も一般紙では知りようのない世界が続きます。闇の中に閉じ込められた日本漁業の内情を知ることは、消費者にとっても大事なことではないでしょうか。
◎渡辺西賀茂診療所編
『京都の訪問診療所おせっかい日誌』
(幻冬舎、1512円)
京都市北区の上賀茂神社近くにこの診療所はあります。来診も受け付けますが、南は御所、東は高野川を越えて訪問診療を行っているユニークな「おせっかい診療所」です。
おせっかいというのは、依頼があれば医師、看護師、介護士が即刻出かけていき、家族や患者ととことん話し、親身になって相談に乗り、処置し、ご近所の、かかりつけ病院以上の存在だからです。
こんな効率の悪い(悪そうな)診療所がほんとにあるのかと思ってしまいます。でも渡辺院長の心温まる本文にはこれぞ医の心だと感服してしまいますし、看護師、介護士、そして患者の家族が書いた短文はみな感動的でさえあります。
医は仁術とよく言いますが、登場する患者さんのように納得し満足して在宅で死ねればこんなありがたいことはないでしょう。
この診療所の医師や看護介護スタッフは負担に思うどころか患者やその家族から多くを教えられるのだと言います。願わくはこんな診療所がたくさん生まれてほしいものです。
◎秦新二・成田睦子
『フェルメール最後の真実』
(文春文庫、1080円)
上野の森美術館でフェルメール展が開かれています。世界に35点余りしかないフェルメールの絵画のうち9点が日本にやってきているのですからほんとにすごいことです。
さてフェルメールの人となりと全作品についての解説も参考になりますが、世界に10人と少々しかいないフェルメール・シンジケートと呼ばれる美術専門家の言動が本書の最大の魅力です。
彼らが時に協力し、時に反目しつつフェルメールの絵画を貸し借りしあう構図は他に例を見ない世界です。フェルメールの企画展も彼らなしには実現はありえないのだとか。共著者もシンジケートの一角に位置しており内側からの描写が真に迫っていて、普通の美術書とはまるで違った面白さでした。
なおフェルメール作品は盗難でも他を圧していますが、盗難事件中心であれば朽木ゆり子『消えたフェルメール』(インターナショナル新書、918円)をお勧めします。
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