【小松泰信・地方の眼力】ハイコウはコウハイへの道2018年11月21日
11月10日長崎県南島原市で講演。その後の懇親会で、集落の限界集落化について相談を受ける。小学校が廃校になり、今夏その校舎が解体され更地となった。それから急速に地域は腑抜け状態になったそうだ。「なくなってはじめて、校舎の存在する価値が分かった」と、吐露された。不甲斐ないことに、妙案を即答することもできず、常識的な感想やコメントで茶を濁した。
◆廃校再生は地方創生の試金石
その数日後、新聞書評欄で『廃校再生 ストーリーズ』(美術出版社、2018年)を知り、早速購入。帯には、「廃校は、ただのハコじゃない。コミュニティデザインの舞台だ。全国のケーススタディを巡る、20篇の物語。廃校が、カフェになった。オフィスになった。病院になった。博物館になった。老人ホームになった。酒蔵になった。道の駅になった。図書館になった。水族館になった。もう一度、学校になった。そしてまた、人が集まる場所になった」と記されている。
「はじめに」では、「近年、少子化などによる就学人口の減少で、毎年500校もの廃校が生まれています。今や『大廃校時代』と呼ぶ人さえ出てきました。廃校が最も多いのは北海道(そして活用数も最多)で、実はその次に多いのは東京です。......廃校は『どこか遠くの過疎地の問題』などではなく、私たちのすぐ近くにあるのです」と、その概況が紹介されている。
もちろん、学校が学校として存続することが望ましい。しかし「廃校は、何にだってなれる。一つひとつの施設を訪れると、『希望』や『可能性』といった言葉が自然に浮かんできます。かつて私たちが学び舎で過ごした日々の思い出とともに」と、廃校となっても諦める必要はないと勇気づける。20篇の物語が、「廃校再生は、地方創生の試金石である」ことを教えている。
まずはその中から二事例を紹介する。
◆学校は地域のシンボル
「起業家が羽ばたく、ベンチャーの巣。隼Lab. 鳥取県・八頭郡八頭町」は、創る場所になった廃校の例である。
鳥取県八頭町は、地域発の産業・起業家育成の戦略拠点として、2017年12月に隼Lab.(はやぶさラボ)をオープン。もとは2017年3月に閉校した隼小学校。わずか9ヵ月でのスピード開設。
隼ラボは、「地域や企業、行政が一体となって地域課題の解決や新たな産業・雇用を創出する場」として旧隼小学校をリニューアルして開設された公民連携複合施設で、コミュニティの醸成と起業の支援という、ふたつの機能を担っている。
運営主体である株式会社シーセブンハヤブサの代表取締役である古田琢也氏によれば、リニューアルに際して「費用面もありますが、小学校は町のシンボルだと思うんです。遠くからでも校舎が見えると懐かしい。色が変わるだけでも思い出が損なわれてしまう。こういう、地域のみんなが記憶を共有している資産はなかなかありません。だから、改修に当たっても一切手をつけませんでした」とのこと。現在、18社がオフィスやコワーキングスペースを利用し、シェアオフィス12室は満室。イベント開催時には、100から200人の参加者が集まり、隼ラボをきっかけとした交流を生み出しはじめているそうだ。
古田氏は、隼ラボを町の未来に向けた「土づくり」と位置づけている。
◆学校は未来への投資
「全国から生徒が通う、南の島の高校。N高等学校沖縄伊計本校 沖縄県・うるま市」は、もう一度学び舎になった廃校の例。
2012年3月末に閉校となった沖縄県うるま市立伊計小中学校は、2016年4月、ネットの通信制高校「N高等学校沖縄伊計本校」というまったく新しい学校となり、島に再び教育の火を灯した。
閉校となった建物の活用について伊計自治会が悩んでいた時、カドカワ(ニコニコ動画で知られるIT企業ドワンゴと出版社のKADOKAWAが経営統合)の高校設立プロジェクトメンバーたちは、当初より廃校を利用して「今までにないまったく新しい学校をつくろう」と燃えていた。
プロジェクトメンバーの一人で後に校長となる奥平博一氏は、築20年のきれいな校舎と海を望むロケーションの素晴らしさに魅了され、一目見て「絶対にここだ!」と直感で決めたそうだ。
「住民アンケートでは、跡地を学校関係として活用してほしいという意見が圧倒的に多数でした。島に学校が戻ってくる。それはみんなの要望でもあったんです」「離島教育にとってもネットの高校は理想的」と、自治会長の玉城正則氏も賛同した。
N高には、年に5日間スクーリングという形の登校日がある。島に来た生徒たちは、エイサー(伝統芸能)の鑑賞やハーリー(舟の競漕)体験、黄金芋の農業など島の人たちによる課外授業を受ける。
「N高ができて、地域にいろいろなアイディアが生まれ、みんなのやる気が出てきた。人が動くことで島は変わっていく。夢がある」と語るのは玉城氏。「N高は未来への投資です。生徒たちが......家族を連れて帰ってくるかもしれない。それが島の財産」と位置づけるのは奥平氏。
◆不便さから学ぶ
日本農業新聞(11月18日付)の『現場からの農村学教室』において辻英之氏(グリーンウッド自然体験教育センター代表理事、長野県泰阜村総合戦略推進官)が、長野県泰阜(やすおか)村における山村留学の取り組みが社会的事業として成長した経験から、全国的に山村留学が急激に衰退した要因について鋭く切り込んでいる。
「答えは簡単だ。児童数減少に悩む自治体が『山村留学』を『学びの政策』から『刹那的な移住政策』に変質させてしまったからだ。......便利さや価格の安さを売りにして、都市部の子どもを獲得しようとした。山村において、都市部より便利な暮らしをするという構造的な自己矛盾。都市部の親子の支持を瞬く間に失い、多くは継続難に陥っていった」と。他方、泰阜村では、「子どもが1年間暮らしていく中で『面倒くさいことが楽しいんだ』とつぶやくようになる。その言葉にハッとさせられる」ことから、「山村留学は、山村の『不便さ』という土台で学ぶからこそ山村留学なのだ。泰阜村はその本質を貫き通したから成功している」と、記している。
「よく『うちの町には何もないから』と嘆く市町村がありますが、どの地域にも固有の歴史があり、特徴があるはずです。......地方創生で最も大切なことは、その素晴らしさを伝えきれるかどうかだと思います」とは、ジャパネットたかた創業者の高田明氏(毎日新聞、11月13日付)。
「不便」「何もない」ことを嘆くなかれ。「不便」「何もない」という名の教えの師が、いかに多いかを誇れ。
「地方の眼力」なめんなよ
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