【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】JAの部門別収支と代理店化の影響2018年11月29日
日本の対米外交は「対日年次改革要望書」や米国在日商工会議所の意見書などに着々と応えていく(その執行機関が規制改革推進会議)だけだから、次に何が起こるかは予見できる。その一つは、金融と共済(保険)の「対等な競争条件」を強く求めていることである。
郵貯マネーの顛末は示唆的である。米国の金融保険業界が日本の郵貯マネー350兆円の運用資金を「喉から手がでるほど欲しい」ということで、「対等な競争条件」の名目で解体せよと言われ、小泉政権からやってきた。ところが、民営化したかんぽ生命を見てA社(の代理たる米国政府)から、「これは大きすぎるから、これとは競争したくない。TPPに日本が入れてもらいたいのなら、『入場料』としてかんぽ生命はガン保険に参入しないと宣言せよ」と迫られ、所管大臣はしぶしぶと「自主的に」と述べて、発表した(注: 日本の政治家が自主的にと言ったときは「米国の言うとおりに」と置き換えると意味が通じる)。
それだけでは終わらなくて、その半年後には、全国の全2万戸の郵便局でA社の保険を販売すると宣言させられた。これが「対等な競争条件」なのか。要するに、「市場を差し出せば許す」ということだ。これがまさに米国のいう「対等な競争条件」の実態であり、それに日本が次々と応えているということである。 郵貯マネーにめどが立ったから、信用・共済の155兆円(運用資金)を目当てにした農協「改革」は目的を達成するまでは終わりそうにない。日米FTAの交渉開始で、その「総仕上げ」が進む懸念が強まっている。
すでに、長期化するマイナス金利政策によって、信用事業の収益が減少しているが、准組合員の利用規制(正組合員の利用額の半分を超えてはいけない)を回避するにも代理店化が選択肢となるとして、特に、信用事業の代理店化については具体的な検討が進んでいる。 一定の条件の下での試算では、信用事業の代理店化によって、信用事業収益は52%程度減少する。事業費用+事業管理費は人件費の節減も含めて46%程度削減されるという試算も成り立つが、人件費は生首を切れるわけではないから、減らせない(別の事業に配置転換する)と考えると、経費は27%程度の削減にしかならない。
とりあえず、これを次表の全国計の数値に当てはめてみると、信用事業の事業利益は、975-743=232(単位:10億円)から468-542=▲74へと赤字に転落する。他の事業が現状維持としても、信用が赤字になるだけで、JA全体の事業利益も▲106と赤字に転落する。
県1本のJA合併で乗り切れるかどうか。信用事業に携わる人件費が減らせるとしても、他の部門で吸収せざるを得ないから、生首を切れない人件費は全体としては簡単には減らせない。つまり、1県1JAにしたからといって、どれだけ合併効果があり、収益構造が改善できるのかについは慎重な検討が必要である。
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