【城山のぶお・リメイクJA】第15回 地域へのかかわり―レイドロー報告2018年11月30日
1995年の協同組合原則で、新たに第7原則として「地域へのかかわり」が追加された。これは、1980年に行われた第27回ICA(国際協同組合同盟)のモスクワ大会で行われた「レイドロー報告」(西暦2000年における協同組合)に由来する。
ICAはモスクワ大会の主要テーマに「西暦2000年の協同組合」を掲げ、その基調報告の資料をカナダの協同組合運動家・研究者であるA・レイドロー博士に依頼した。その内容が「レイドロー報告」といわれるものだ。
「レイドロー報告」は、1960~1970年代の国際協同組合運動の批判・反省のうえに立つものとして評価が高い。この報告はその後の、1988年の第29回大会「マルコス報告」、1992年第30回大会「ベーク報告」による協同組合の基本的価値の検討、協同組合原則の改訂提案を経て、1995年の第31回大会(ICA100周年大会)における、「21世紀における協同組合原則(95年原則)」の制定に繋がっていく。
この報告で、レイドローはそれまでの運動を総括し、現代の協同組合運動は、(1)組合員からの信頼の危機、(2)経営の危機、(3)思想の危機に直面していることを指摘した。
その上で、今後協同組合が取り組むべき課題として、第1優先分野:世界の飢えを満たす協同組合、第2優先分野:生産的労働のための協同組合、第3優先分野:社会の保護者をめざす協同組合、第4優先分野:協同組合地域社会の建設の四つの方向を提示した。
第1分野は、全人類共通の食料問題への貢献、第2分野は、労働者生産協同組合による雇用問題への貢献、第3分野は、資本主義経済発展の下でのあらゆる意味での社会的保護への貢献、第4分野は地域社会への貢献である。
だが、さらにその後の状況を見れば、グローバル経済やネット社会の進展のもと、原発事故によるエネルギー問題や地球温暖化などの環境問題、多国籍企業による市場の寡占支配など現代の協同組合はさらに多くの課題を抱えているのが現実だ。
ともあれ、JAにおいてレイドロー報告に大きな興味が持たれたのが、第4分野の地域社会への貢献であった。この報告の後、JA大会議案などでも地域社会への貢献などの文言が盛んに使われるようになった。
また、地域社会への貢献について、JA関係の多くの学者・研究者は大きな関心を持ち、支持を表明した。というのは、レイドローが指摘した地域社会への貢献は、日本の総合JAがそのモデルとされたからである。
筆者も、かつて「地域へのかかわり」が協同組合原則に盛り込まれたことを引き合いに、「世界が認めた日本の総合JA」などという言い方をしてきた。
しかし、支持者の内容を見ると、農協論の中でも、いわゆる地域組合論に立つ人が多いことが分かる。地域組合論に立つ人は、農業振興は二の次で、地域の組合員にサービスを提供するのが総合JAの役割だと説く。
地域組合論者には、レイドロー報告が協同組合原則に取り入れられたのは、自らの主張が取り入れられ、また自らの主張をあと押しするものと映ったからだ。
確かに、レイドローが言うように「現在の制度なり社会秩序に実質的変革をもたらそうとするならば、農村部では総合農協でなければならない。いかなる種類の協同組合も単一の組織ではそれは不可能であり、協同組合は各種事業を一つの協同組合に結集したものでなければならない」という指摘は当を得ている。
だが、この文章の中でポイントは「農村部では総合農協でなければならない」というくだりだ。かつての農協の地域はほとんどが農村部であり、それがゆえに、わが国の農協は総合農協として説明することができた。
経済の発展により現代の協同組合は先進資本主義諸国においては、ほとんどの場合、業種別に組織されてきている。それは、わが国においても例外ではなく、農協、漁協、生協など各種協同組合に分化を遂げてきている。一方で、JAは農村部から都市部まで全国を網羅し、レイドローが指摘した、総合農協は農村部だけを存立基盤として成立している状況ではない。
したがって、地域性だけをもって、つまり地域組合論で総合JAの存在意味を説明することは無理があり、農業振興にとって総合JAは必要だという新しい論理を新しく打ち立てて行くことが求められている。それは、かつての単純な職能論に戻ることを意味するものではない。
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