【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(109)家族構成の変化がもたらすもの2018年11月30日
国立社会保障・人口問題研究所によると、平成30年の日本には5,389万世帯が存在し、平均世帯人数は2.28人という。今後、国内の人口減少に伴い総世帯数も減少することが見込まれているが、食料・農業・農村を考える上ではその内容が問題となる。
具体的には、今後2040年までの20年ほどで総世帯数は313万世帯減少するようだ。内訳は、「単独」世帯が94万世帯増加する一方、これまで当たり前と思われていた「夫婦と子」世帯が243万世帯減少する。割合で見た場合、「単独」世帯は2018年の35.3%から2040年には39.3%へと4ポイント増加し、「夫婦と子」世帯は26.4%から23.3%へと3ポイント減少する。
簡単に言えば、5千万世帯の4割、つまり約2千万世帯が「単独」世帯となるだけでなく、核家族化が急速に進展する将来が2040年には予想されている。こうした変化が人々の「モノの考え方」や価値観にいかなる影響を及ぼすかは一考に値する。
例えば、成長した子供のうちの一人が親と同居して家を引き継ぐことは、少し前までの日本では数多く行われていた。もちろん、正確に歴史を遡れば時代によりかなり異なることがわかるが、とりあえずここ100年ばかりを見れば、「長男が跡取り」という意識は日本の各地に残っていたのではないだろうか。実際、農家の多くはそのようにして田畑を継承してきている。
このような形態はヨーロッパではドイツ、アジアでは韓国や日本などがよく知られている。様々な意味で親は絶対的権威者であり、引退した後でもそれなりの力を持っていた。興味深いことに、日本の多くの企業は現在でもこうした意識をそのまま社内に残しているのかもしれない。「院政」や「会長」などという言葉もそれを反映しているのであろう。
これに対し、一旦成長した子供が親とは全く別に新しい家族を作り、対等な立場で独立するのがいわゆる核家族である。これも程度の差はあるが、米国や英国などがよく例として出される。米国の農家を訪問すると、70代であろうが80代であろうが、子供の人生とは全く関係なく、親は親、子供は子供として、独立した生活を営む例によく出会う。日本型をウェットとすればこれらの国々は人間関係が非常にドライに見えるが、彼らが人間的にドライという事ではない。当然、喜怒哀楽は感じるし、様々な家族のイベントなどはむしろ日本より多いかもしれない。
これらの類型にはさらに多くの分類がある。興味ある方は日本でも翻訳されているエマニュエル・トッドのような家族人類学者の本を読んで頂ければ面白いであろう。
さて、本稿のような短いコラムでは数字から簡単なイメージを喚起して頂ければ十分である。それは、あまり遠くない将来の日本は、2千万の「単独」世帯、1千万の「夫婦のみ」世帯、1千万の「夫婦と子」世帯、そして5百万の「ひとり親と子」世帯、残りがその他で合計5千万世帯という状況になるということだ。
核家族の最小単位は「夫婦」や「ひとり親と子」である。ものの本によれば、これら少人数の家族の中では自由、平等、個人主義、移動...といった価値観がよく育つという。「単独」世帯であれば言うまでもない。いつ寝ていつ起き、どこへ行くのも自由という訳だ。こうした考え方や価値観が長期的にどこまで社会に浸透するかは、協同組合という組織の基本的な考え方にも多かれ少なかれ影響を与えるであろう。
私事になるが思い出すのはほぼ20年前、筆者自身に長男が生まれた際、亡き父親から「跡取りができたな」と言われたことである。正直、何の跡取りなのかがよくわからず戸惑った記憶がある。大正時代に生まれ、複数の兄を持ち、その兄たちが不在の時は家を守り、祖父や伯父達を絶対的な存在として生きてきた父と、高度経済成長期に一人っ子として生まれ育った筆者では「跡取り」という言葉に対する感覚が大きく異なるのであろう。筆者の息子に至っては、恐らく今でも「跡取り」という意識などは殆ど無いと思う。
転勤族であり、都市住民の一人として多くの時間を過ごしてきた今では、親として子供に残せるものは、物理的な家や土地などではなく、基本的な「モノの見方」や物事に対する「姿勢」、そして幼少期に海外を連れまわしたことにより副次的に身に着けた外国語の音に対する感覚くらいしかないと考えている。その点では守るべき、そして継承すべき田畑がある農家は本当に恵まれているし羨ましいと思う。
先に紹介したトッドは、家族構成の違いは民族による考え方や価値観の違いに大きな影響を与えると考えていたようだが、同時に社会には長期にわたる「慣性」のようなものがあるとも述べている。社会の「慣性」と人々の意識が微妙に食い違う時、世の中は割と面倒な時代になるのかもしれない。
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