【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(117)取扱高で見た世界の協同組合(2:農業・食品部門)2019年2月1日
先週、ICA「世界の協同組合モニター2018」のランキングを紹介したが、そこでは金融や保険関係が含まれていたため、農業・食品関係に絞ったランキングを見てみたい。
調査に取り上げられている2575の協同組合のうち、部門として農業・食品部門(Agriculture and Food Industries)に分類される協同組合は846、そのうち欧州が662、米州が131、アジア太平洋地域が131となっている。
これら846の協同組合の中で年間取扱高が1億ドル(1ドル=100円として、100億円)を超える協同組合は386存在する。さて、ランキングを見てみよう。
組織 国 取扱高(2016:10億ドル)
1. Zen-Noh 日本 44.06
2. Nonghyup 韓国 36.45
3. CHS, Inc. 米国 30.35
4. Bay Wa 独 17.06
5. Hokuren 日本 14.06
6. Dairy Farmers of America 米国 13.50
7. Fonterra ニュージーランド 13.40
8. Land O'Lakes, Inc. 米国 13.20
9. FrieslandCampina オランダ 12.18
10. Arla Food デンマーク 10.83
なお、11位以下を名称と国だけ記すと、11位(Danish Crown:デンマーク)、12位(Copersucar:ブラジル)、13位(In Vivo:フランス)、14位(Sudzucker:ドイツ)、15位(Growmark, Inc.:米国)...という形で続く。以下、簡単にコメントする。
※ ※ ※
1位のZen-NohはもちろんJA全農(全国農業協同組合連合会)のことであるため、説明は省略する。2位のNonghyupの取扱高には金融と保険の取扱高も含まれているとの注釈があり、これらを除いた取扱高がいくらになるか筆者には不明である。3位のCHS, Inc.は米国ミネソタ州に本拠を置く農協である。エネルギーと食品の2つを大きな事業の柱としている。CenexとHarvest Statesという2つの農協が合併し、会社化した農協である。4位のBay Waはドイツ・ミュンヘンの本拠を置く、これも農産物だけでなく、エネルギーや建材から食品小売りまで多角的な経営を行っている。世界各国に事業展開しており、34か国3,000箇所以上に事業所がある。5位のHokuren、これも説明不要であろう。わが国の「ホクレン」である。部門別取扱高で見ると、世界第5位というのが興味深い。こうした形で「ホクレン」のポジションを認識している日本人は意外に少ないのではないかと思う。
6位のDairy Farmers of Americaは、米国カンザス州カンザス・シティに本拠を置く米国産牛乳のマーケティングを主目的とする農協である。メンバーは全米の48州8500農場に広がり、約1万5000人の酪農家の利益を代表していると言ってもよい。1998年に米国の主要な4つの酪農協が合併して作られている。
7位のFonterraはニュージーランド、オークランドに本社を置き、日本でも有名である。もともとは同国のキーウイ酪農協同組合などが原点にあるが、2001年にFonterraとなり、今やニュージーランドの輸出額の約4分の1を占める巨大な乳業会社である。
8位のLand O'Lakesは、米国ミネソタ州アーデン・ヒルズに本拠を置く酪農協の「老舗」である。筆者などが現役の穀物トレーダーの頃でも非常に有名であった。約2000人の酪農家と約750の地域農協をメンバーとして、強力なブランド力を生かした事業展開をしている。
9位のFrieslandCampinaはオランダのアメルスフォールトに本拠を置き、約1万8000人の酪農家をメンバーとして世界34か国に事業所を持ち、100か国以上でその酪農・乳製品を販売している。メンバーの酪農家はオランダだけでなく、ベルギーやドイツにもおり、協同組合が会社(company)を所有している形式を採用している。
10位のArla Foodも日本では良く知られている北欧の農協である。デンマーク・オーフスに本拠を置くが、スウェーデンのArlaとデンマークのMDフーズが合併した乳製品中心の農協である。
さて、個別農協の詳細はこのくらいにとどめるが、こうして見ると、「老舗」でも残るところは残る。そして、「単純な協同組合の会社化」ではなく、「会社」という形態を上手く活用して事業展開をしていることがわかる。さらに、国境を越えた事業展開だけでなく、多国籍のメンバーを擁する協同組合もある。
※ ※ ※
長期にわたり農政の実質的な遂行機関としての役割を担ってきた日本の農協は、かつての市町村など自治体の境界を事業領域としてきた長い歴史があるが、近年の市町村合併とJA合併の流れの中で、双方の境界が一致しない例がいくつも生じている。これを国際レベルで見れば、国境を越えた経済活動ということになる。はたして将来的に、アジアや米国、欧州やアフリカの生産者や生産者組織が日本の農協の組合員になるような時代、あるいは日本の農家が諸外国の農協の組合員になる時代は来るのだろうか。
現実的にはグローバル化の一方で「食の安全」やローカル・フードに対する関心が高まっている。アクセルとブレーキの程合いがどうなるかは非常に興味深い。
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