【小松泰信・地方の眼力】「なんでも官邸団」の大罪2019年2月13日
毎日新聞(2月8日付)によれば、学校法人「加計学園」の獣医学部新設問題を巡り国会で追及を受けた元首相秘書官の柳瀬唯夫氏が、NTT傘下の海外事業を統括する中間持ち株会社の社外取締役に就任したそうだ。氏は、この問題で愛媛県職員と首相官邸で面会し、「本件は首相案件」と発言した記録が出て国会へ参考人招致された。ところが、「記憶の限りでは会ってない」と言い逃れをして一躍時の人となった。澤田純社長は、「グループの対外交渉で(柳瀬氏の)世界的な人脈を活用したい」と、選任した理由を説明している。「記憶力」に不安を抱えている人に勤まるのか、他人事ながら気になるところである。
◆加計学園問題終息させじ
加計学園といえば、前回の当コラムで告知した『前川喜平さんと考える メディアのあり方』は、極めて盛会裏に行われた。主催者の心配をよそに400人が集まり、会場は立錐の余地もなかった。
議論の対象であった山陽新聞は、加計学園と同じ岡山市に本拠地を構え、他紙と比べて加計問題に関する情報入手率は高い。にもかかわらず、その極めて腰の引けた報道姿勢には多くの人が不満と疑問を感じていた。その理由の一つがこの集会で明らかになった。それは、山陽新聞社会長の越宗孝昌氏が加計学園の理事である、ということだ。
前川氏は、「公器である新聞社のトップが、政権中枢を巻き込んだ一大疑惑事件の渦中にある組織の役員を勤めることは利益相反。少なくとも、問題化した時点で、理事を辞任すべき」と、コメントした。
「どうしてこんなに嘘つきばかりになったのだろうか。いまの不正統計問題、誰が調査したかとか、調べればすぐに分かることで、見え見えの嘘を平気でついている。記憶違いとか勘違いとかではない。偉い人ほど嘘をつく。嘘も方便、嘘は世渡りであり、時には嘘も必要なのかもしれないが、最近の嘘はまずもって見苦しい。......立場上、嘘をつかねばならない人たちもいるのだろう。もし、その人に一片の良心があるならば、それに正々堂々と従うことのできない組織や社会こそを変えていかなければならない。今からでも遅くない」と、山口豊己さん(京都市)は京都新聞(2月9日付)に読者の声を寄せている。
加計学園問題はまだ終わっていない。もちろん、終わらせてはならない。
◆あなたが悪夢
安倍晋三首相は自民党大会(2月10日付)における演説で、「あの悪夢のような民主党政権が誕生した。決められない政治。経済は失速し、後退し、低迷した」と述べた。しかし当コラムには、第2次安倍政権による独裁的政権運営の方が、民主党政権をはるかに越える「悪夢」を、国民に見せ続けているとしか思えない。
日本農業新聞(2月11日付)によれば、首相はその演説のなかで、農林水産物・食品の輸出拡大をはじめ「攻めの農政」に力を注ぐ考えを改めて示したそうだ。その一方で、4月の統一地方選や7月の参院選をにらみ、地方の反感を招かぬよう改革色を抑制し、「美しい故郷、国柄を守ってきたのは農林水産業だ」と、歯が浮いて抜け落ちそうな聞き飽きたリップサービス。規模拡大が難しい中山間地域への支援にも言及したとのこと。慢性虚言病を患う方の演説故に、話半分としておこう。
期待もしていないが、今年からはじまる「国連家族農業の10年」についても、「小農と農村で働く人びとの権利に関する国連宣言(小農の権利宣言)」についても、言及されなかったようだ。
◆アッそうでは済ませない
次は、慢性暴言病患者の登場。その人の名は麻生太郎。2月3日に福岡県で開いた支持者向けの会合で、「年寄りが悪いみたいなことを言う変なのがいっぱいいるけど、それは間違いだ。子どもを産まなかったほうが問題なんだから」と発言。
京都新聞の社説(2月9日付)は、まず「子どもを産む、産まないは、個人の問題だ」と、バッサリ。「少子化の背景には労働環境など社会的障壁があり、望んでも『産めない』環境こそが問題であるのに、女性らに責任を押し付けていないか。長時間労働の是正や育児休暇の充実、経済的不安の解消によって仕事を続けつつ希望通りに子どもを産み育てられる環境を整える――それこそが政治の責務だ。根本的な対応を怠ってきた帰結が今日の少子化であろう」と、正論を展開する。そして、「麻生氏は政権ナンバー2にもかかわらず、耳を疑うような放言、暴言が目立つ。......繰り返される暴言を、またか、批判しても無駄だ、と寛容に受け止めてはなるまい」と、とどめを刺す。
福岡県農政連が、福岡県知事選において、3選を目指す現職の推薦を決めたという、麻生氏にもかかわる興味深い記事が、西日本新聞(2月2日付)の一面に載っている。
自民党は元厚生労働省官僚の推薦を決めている。記事によれば、「自民党の有力な支援団体である農政連が異なる候補予定者を推薦するのは極めて異例」とのこと。
農政連執行部などによると、現職のこれまでの実績を評価し推薦を決めたそうだ。新人の党推薦を主導した麻生氏の地元からは異論も出たが、最終的には満場一致でまとまったそうだ。
県農政連委員長は「県の農業予算は増えている、ブランド推進や災害復旧も迅速だった」と推薦理由を説明し、「知事選は先生(議員)たちの選挙ではない。県民の選挙で私たちの独自候補を立てようとなった」と、述べている。
◆「なんでも官邸団」では、良い仕事はできません
西日本新聞(2月10日付)の「月いちコラム」で田端良成氏(九州大学西日本新聞寄付講座教授)は、毛沢東の主治医だった李志綏(リ・チ・スイ)氏による『毛沢東の私生活』(文芸春秋刊)の中の興味深いエピソードを紹介し、「偽装工作」に言及している。
「毛沢東が列車で国内を旅したとき、沿線の党支部は別の場所から見栄えのいい稲穂を運び込み、線路に沿って植え替えた。李氏は『最高権力者に褒めてもらいたいがための、豊作の偽装工作だった』と述懐している」ことを、「どこかで見た光景」という。
そして、安倍晋三首相が1月末の施政方針演説で、「(政権を握った)この6年間で、経済は10%以上成長した」等々を力説したことを取り上げ、「あくまでも主観だが、経済成長の恩恵をほとんど感じたことがないわが身からすれば、『数字』が厚着をして小躍りし、首相官邸にだけ向かって笑顔で手を振っているように思えてならない」と、強烈に皮肉る。
「今日、問われているのは、政府が大きすぎるか小さすぎるかではなく、機能しているかどうかである」というオバマ前米大統領の言葉を引き、「日本の官僚組織が機能不全に陥っているとまでは言わない。ただ、どっちを向いているかである」と、その姿勢に疑問を呈している。「なんでも官邸団」と化した官僚組織の何と罪深きことか。
「地方の眼力」なめんなよ
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