【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(120)東北のJA次世代リーダー達と接して2019年2月22日
2月18日、宮城県名取市のJA学園宮城において、平成30年度次世代リーダー育成フォロー研修が開催された。宮城県内のJAから約20名の中堅職員が集まり、様々な議論を行った。筆者は午前中に食料・農業・農村をめぐる最近の状況について話をした後、午後は全国から選んだ2つのJAのケース分析のインストラクターを務めた。
さて、ある対象を調査する際、よく知られている2つの方法がある。1つは質問票を大量に送付してデータを集め、その結果を分析する方法である。一般にはアンケート調査などと呼ばれているが、研究者の世界でサーベイ・リサーチと呼ぶ。
調査を行いたいと思っている当事者が現場に行く必要がないことに加え、最近ではインターネット等を利用して実施するため、調査コストが低い。収集されたデータの定量化も容易であるし、そもそも恣意的な操作が難しいため、客観性が高いというメリットがある。学生の卒論の一番簡単なパターンは、仮説を立て、こうしたアンケート調査によりその仮説を検証するというものだ。
ところが、そもそもアンケート調査は、対象とする母集団をどのように選ぶかというところからバイアスがかかることもあれば、事前に定められた回答選択肢以外の微妙な回答は全て「その他」扱いになることも多く、途中で意図せぬ発見に出会うようなこともない。回答した時点ではその通りでも、次の瞬間には事情が異なるかもしれないという可能性は否定できない。言い換えれば、スナップショット的な分析はともかく、ある物事を経時的に観察し続けるには余り適していないということだ。
これに対し、筆者がよく使用する方法に、いわゆるケース・リサーチがある。調査対象との意見交換やインタビュー、資料の閲覧などを通じて、定性的な情報を集める方法である。手間と時間、そして費用はかかるが、アンケート調査ではわからない「微妙で詳細」な変化を発見することが出来る。時間をかけて特定の対象と接することにより、明らかな変化を認めることも可能であるし、そこから新しい仮説を発見することも可能である。個別の人間関係の構築など副次的効果も大きい。
しかしながら、ケース・リサーチは、アンケート調査ほど手法が標準化されていないこと、調査対象の発言そのものや、その解釈に主観が入り込む可能性も否定できない。要は、客観性に疑問を提示されることがある点が難点でもある。
筆者が、ケース・リサーチを主体とした調査方法を自ら採用しているだけでなく、研究室の学生達にも指導している理由は、こうした学術上の問題だけではない。
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ケース・リサーチは、まず対象となる「人」に会わなければならない。「赤の他人」に初めて連絡を取り、内容を説明して「アポ」を取る。断られることもあれば、受け入れられることもある。最初は何度言っても、自分で電話がかけられない学生も、時間が立つにつれて、何とかハードルを乗り越えるようになる。営業と同じである。
初めてのインタビューは恐らく緊張しまくりであろうが、数をこなすにつれて、聞き出せる内容も向上してくる。こうしたことを3か月ほど繰り返すと、学生の対人関係の振る舞い方が明確に変化してくる。あとは論文を書くだけだが、これはまた別問題だ。
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さて、冒頭の次世代リーダーフォロー研修の参加者達の話に戻ろう。東北地方は6県の農協中央会が中心になり、毎年合同で次世代人材の育成研修を実施している。うまく言えないが、久しぶりに顔を見ると、懐かしいというよりも参加者の多くが逞しくなったなという感じが強い。こちらは時間の経過とともに肌の張りが無くなる世代だが、次世代を担う若手は現場で鍛えられると顔つきが変わってきているのがわかる。これは単純なサーベイ(アンケート調査)ではまず体感できない経時的な「人の成長」の証であろう。
サーベイ・リサーチもケース・リサーチも手法としてはメリット・デメリットがあるが、筆者自身がケース・リサーチに重きを置いているのは、こうした「人や組織の成長」をリアルに感じられるからである。懇親会の時の雑談で金融畑と営農畑で育った職員の「モノの考え方」の違いが話題になった。数年前の研修会の話題とはまた違うレベルでの嬉しさを感じた次第である。
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