【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(127)初心に戻る2019年4月12日
スケジュール表を見ると、驚くほど先まで予定が入っていたりする。もちろん、仕事があることは有難く良いことだし、個々の仕事にはそれなりの理由や関心があるとともに、自分と外部との関係の結果だからこそ、予定表に記されていることは間違いない。ただ、時々ふと思う。もしかしたらこれは割引キャッシュフロー計算と同じようなものだなと。
ビジネスの世界では割引キャッシュフロー計算(DCF:discounted cash flow)という手法をよく用いる。簡単に言えば、現在の1万円と1年後の1万万円では価値が異なるということだ。計算を簡単にして事例で考えるとわかりやすい。
利息を年10%とすれば、現在の1万万円は1年後には1万1000円になる。これは誰にでもわかる。では同じ利息10%の時、1年後の1万円は現在のいくらに相当するか。簡単なクイズのようなもので、これは大人でも結構間違える。
最も多い間違えは即座に9000円と答えることだ。何となくそう考えてしまうのであろうが、現在の9000円は利息10%で1年間経過すると、9900円にしかならない。1年後に1万円にするためには、現在9090.909090...という金額が必要である。人間の頭というのは不思議なもので、小学生でもわかるような計算を全く逆の方向から問うと、簡単に間違えることがある。おかしな話につい引っかかるというのも単なる注意不足ではなく、こうした思考のクセを巧妙に活用したトリックなのであろう。
割引キャッシュフロー計算の概念や概数の計算そのものは、大昔から商人には当たり前の事であったようだ。筆者達の世代は最初「割引率」が示された紙の換算表を使用し、次の段階では関数電卓を使用した。外資系に務めるコンサルタントの多くが使用する決まったブランドの電卓があり、スマートに取り出して計算する姿が世間で話題になったこともある。筆者もある時期までは関数電卓を愛用していた。今でも手元にあり必要に応じて使用するが、最近はパソコンの表計算ソフトの計算式で済ますことがほとんどである。
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話を戻すと、1年後の1万円、つまり将来の価値(実際に将来価値という)を一定の割合で割引いたものが現在の価値(これを現在価値)というのであれば、筆者が日々携帯やパソコンのカレンダーに入力している将来の予定と将来価値、どちらがどちらに影響しているのだろうかということだ。
仮に100の時間が将来に与えられていたとすると、様々な予定を入れ込むことは100の時間から各々の予定分だけ価値を減少させているのかもしれない...などと考える時が多くなった。もちろん、予定を入れたことで将来価値が拡大することもあるだろうが、人生の半ばを過ぎた頃から、忙しい時ほどこうしたことを考えるから困る。もちろん結論はわからないし、入った予定は粛々とこなしている。
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先日、学生時代に読んだウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読み返し、同時にプロテスタント、特にカルヴァン派の予定説についても少し考える機会を得た。誤解を恐れずに粗く言えば、予定説では人は現生でどのように生きようとも、死後、救済されるかどうかは既に神により定められており、それを知ることはできないようだ。懺悔すれば基本的に赦されるという考え方とは大きく異なる。
だからこそ、人は今の自分の仕事を天職としてしっかりと毎日働き、質素倹約に務め、その結果として利益を得ても、それは神の意志に沿うことである。このように自分の人生について確信を持って日々を過ごすべきという。
恐らくウェーバーが言わんとしていることは、単なる自己の営利目的ではなく、天職としての仕事を全うすることと、そうした意識を持った多数の中小商業者の存在、そして自由闊達な商品取引を可能とした市場がまさに構築されつつあったこと、これらの絶妙のタイミングこそが近代資本主義を、世界中のどこでもなく西欧で発達させたということであり、金儲けの意識が資本主義を発展させたのではないということであろう。回りくどくなったが、要は、一般的に考えられているものとは原因と結果が全く逆であることを、極めて論理的かつ実証的、そして格調高く述べたのがこの名著である。
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さて、筆者はクリスチャンではなく、また将来に無限の時間があると希望に胸を膨らませる年齢でもない。たまにこうした古典を読むと、いつも新しい発見がある。原因と結果、目的と手段を逆転させてはいないかを考えること、いくつになっても自分の原点、そして初心に戻る勇気を持つことがいかに大切であるかが何となくわかる。年度の始めでもあるし、思考と行動を見直し、初心に戻る良い機会かもしれない。
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