【浅野純次・読書の楽しみ】第37回2019年4月16日
◎斎藤貴男
『平成とは何だったのか』
(秀和システム、1620円)
政治と経済社会を中心に平成の30年を振り返った本書は、ほぼ全ページを否定的に総括しています。政治では村山談話など若干の例外を除き、新自由主義的な政策、安保法制、特定秘密保護法の成立など次々に批判のヤリ玉に上がります。
批判は安倍政権だけというわけではないにせよ、沖縄が痛めつけられっぱなしであること、街から自営業が消え続けたこと、排除と差別が広がったこと。などなど著者の怒りは際限がありません。
中でも日本を米国の属国のようにしてきた政治が限りなく腹立たしいようで、小泉政権などが日米構造協議に基き米国の要求を毎年受け入れ続け、日本の富を米国に移転してきたことを痛烈に批判しています。
フリージャーナリストの著者はあまりに直截に発言するためテレビや新聞から声がかからなくなり、今はもっぱら雑誌と書籍を活動の場としているとか。
そのためかどうか、大新聞やテレビでは知ることのない情報が随所に見られます。私も初めて知った事実がいくつもありました。
なお「腹の立つ話」の多い中で、著者は平成天皇皇后の被災地訪問や発言の数々には救われたと高く評価しています。天皇皇后あっての平成だったということでしょうか。
◎奥野修司
『天皇の憂鬱』
(新潮新書、864円)
平成の世もいよいよ終わる。経済もだめ、天災も多いというので平成を悪く言う人が多いですが、もちろん平成天皇と皇后には何の責任もありません。むしろ逆でしょう。
本書はドキュメンタリー作家の著者が「語られることのなかった皇室の光と陰」(帯のキャッチコピー)を掘り起こしたもので、中でも興味深かったのは第1章の「陛下はなぜ跪(ひざまず)かれるのか」。世界の皇室にも例のない慰問の際の跪いてのあの慰問の姿をめぐる話です。
あれは、天皇が決断されたのだけれど、その陰には皇后の影響が大きかったのだとか。皇后は見える物よりも見えない心を大切にされているらしい。この国のリーダーたちに学んでほしいことです。
だからお二人とも慰問の時間が予定をオーバーするのを何より喜ばれるそうです。被災者の人たちにそれが伝わらないはずがないでしょう。お二人の結婚までのエピソードや、「軽井沢のもつ意味」も読ませます。次の天皇皇后にも劣らぬ言動を期待したいものです。
◎泉房穂
『子どものまちのつくり方』
(明石書店、1620円)
著者の名に聞き覚えは? そう、職員への暴言で市長を辞職し、出直し選挙で再選された明石市長です。
本書が出版されたのは2月10日。なので、その顛末には触れていません。でも内容はしごくまっとうで、明石市長として8年、どのような思いと考えで市政に取り組んできたかが語られています。
一番は子どもたちの幸せな街、親が安心して子育てできる街をどうつくっていくか、でした。そのために子ども医療費を「所得制限なし」で無料化し、第2子以後の保育料も無料化したのですが、効果てきめん、第2子を控えた世代が移入してきて人口も税収も見事に増え始めます。
それと「本のまち、明石」を目ざす努力。駅前の一等地に図書館と大型書店を入居させ、巡回図書館も始めます。
街はこうして活性化し始めます。著者はこうした「まちづくり」が全国に広がることを期待します。各地の自治体関係者、地域住民に読んでほしい本です。
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浅野純次・石橋湛山記念財団理事の【読書の楽しみ】
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