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コラム:地方の眼力

【小松泰信・(一社)長野県農協地域開発機構研究所長】

2019.04.17 
【小松泰信・地方の眼力】水産物禁輸敗訴と風評被害一覧へ

 桜田義孝前五輪担当相が復興を巡る失言で更迭された直後の4月14日、安倍晋三首相は、東日本大震災からの復興状況を確認するため福島県を訪問した。東京電力福島第1原発を視察し、「閣僚全員が復興相との基本方針をもう一度胸に刻み、政府一丸で復興に全力を尽くす」と記者団に強調したようだ。2013年9月以来、5年7カ月ぶりの訪問と聞けば、間違いなく「口だけ殊勝」。

◆水産物禁輸敗訴が突き付けたもの

小松 泰信(岡山大学大学院 環境生命科学研究科教授) 「東日本大震災から8年を経た今も、韓国など23の国と地域が輸入規制を続けている。安全性への不安が、国際社会に根強く横たわっていることを示す」(神戸新聞・社説、4月13日)のが、世界貿易機関(WTO)の紛争を処理する上級委員会が4月11日(日本時間12日未明)に下した結論である。すなわち、韓国が東京電力福島第1原発事故後に福島など8県産の水産物の輸入を全面禁止しているのはWTO協定のルールに違反するとした1審の判断を破棄し、日本が逆転敗訴したことである
 毎日新聞(4月13日付)は、「韓国は禁輸を継続する方針。日本は、WTOの判断をテコに輸入制限を続ける国々に解除を働き掛け農水産物の輸出拡大を目指す戦略を描いてきたが、大きな逆風となりそうだ」と、伝えている。
 さらに関係者が発した、つぎのようなコメントを紹介している。
 河野太郎外相は「主張が認められなかったことは誠に遺憾だ」「韓国に対して規制全廃を求める立場に変わりはない」と、2国間協議を呼び掛ける考えを示した。菅義偉官房長官は「日本産食品は科学的に安全との1審の事実認定が維持されている」「敗訴したとの指摘は当たらない」と、記者会見で語った。吉川貴盛農相は「日本の食品の安全性を否定したものではない」と強調した。
 もちろん韓国外務省は「現行輸入規制措置は維持され、日本の8県全ての水産物に対する輸入禁止措置は継続される」との政府見解を発表した。

 

◆現場でできるのは安全安心の地道な積み重ね

 福島民報(4月13日付)の論説は、「原発事故の負のイメージが残る本県にとって大変残念だ」としたうえで、「今回の判断が規制緩和に傾きつつあった他国の方針に影響を与えることも心配だ。それでも県産品の輸出は増加傾向にある。国によって受け入れが拡大しているのは確かだ。産品の安心の質を高め、着実に実績を積み重ねる必要がある」と気丈に語りつつも、「国際貿易の紛争処理での今回のような判断は、被災地にとって原発事故という負の遺産の大きさを改めて突き付けられたように感じる」と、落胆の色は隠せない。さらに、「最近では県が風評払拭のために作成し、インターネットで公開した県産日本酒のPR動画に、誤解や偏見に基づいて中傷する文章が英語で書き込まれ、県が書き込み機能を停止する出来事もあった」ことを伝える。
 「どれほど努力を重ねても、一度付いてしまったイメージは簡単に拭えるものではない。東京電力も国も賠償に値する被害が継続していることを強く認識するべきだ」としたうえで、「安全と安心の地道な積み重ねが規制解除を早めてくれるはず」とする。

 
 
◆原発が置かれた現実を直視せよ

 その地道な積み重ねを、水泡に帰させるような動きに警告を発する社説も少なくない。
 信濃毎日新聞(4月13日付)は、「福島第1原発には、今も汚染水がたまり続けている。放射性物質の影響への懸念は、国内においても完全に解消されたわけではない。情報公開を徹底し、処分方法の検討を十分な納得を得ながら進めることは、国内外を問わず世論の理解を得る大前提である」とする。
 さらに同紙は16日付の社説においても、「東京電力が、廃炉作業中の福島第1原発3号機の使用済み核燃料プールから、燃料の搬出を始めた」ことを取り上げ、「原発という施設が、原子炉に限らず使用済み核燃料という大きなリスクを抱えている事実を、この機会に再認識しておきたい」とし、「政策を転換し、核燃料の安全管理と廃棄物としての処分に道筋を付ける必要がある」とする。そして、「安倍晋三首相は第1原発と周辺を視察し、『復興が進む福島の姿を世界に発信したい』と述べている。『復興五輪』のPRに前のめりになるより、原発が置かれた現実を直視すべき」と、直言する。
 愛媛新聞(4月16日付)の社説は、「福島の原発では今も人体に有害な汚染水がたまり続け、その処理方法が課題となっている。増え続けるタンクの置き場所がなくなるとして、国は汚染水を水で薄めて海に流す方法を議論しているが、新たな風評被害を招く懸念が拭えない。海への放流が国民や輸入規制している海外の理解が得られるのか、あらゆる角度から議論を重ね、処理方法の合意形成を慎重に図らなければならない」とする。
 京都新聞(4月13日付)の社説も、「各国の輸入規制が長引けば、それが風評となって日本国内での流通にも影響が出かねない。このことも十分考慮しておくべきだ。禁輸の起因になった福島第1原発では、タンクで保管を続けている汚染水を浄化処理して海洋放出する案が取りざたされている。新たな風評を招く恐れがある」として、「処理方法の妥当性を見極めると同時に、徹底した対策が必要」とする。 

 

◆密閉度高き段ボール群が教える根絶されない風評

 中国新聞(4月14日付)の社説は、「東電も政府も、深刻な被害が8年たった今も続いていることをしっかりと認識するべきだ。......日本も振り返って反省すべき点はある。福島など被災地の農水産物が敬遠されるケースはまだ多いという。外国に禁輸の解除を求めるなら、まず国内の風評から払拭していくのが筋だ」との正論。
 産経新聞(4月13日付)の主張も、「外国に禁輸撤廃を求める以上、国内での風評対策をさらに強化すべき」とする。
 この問題、水産業に限った話ではない。2018年11月下旬に訪れた北海道の大規模野菜産地の集出荷施設。積み上げられた段ボール群の中に、他とは異なる仕様の一団が目についた。持ち運びのための指を入れるところが開けられていない、密閉度の高いもの。担当者によれば、その取引先は日本海側の鉄路による輸送を希望。それを断ると、可能な限り外気に触れない仕様をもとめてきたとのこと。その理由はお分かりであろう。放射能から野菜を守るためである。
 日本農業新聞(4月14日付)によれば、2018年に開かれた東京都食育フェアで、地産地消運動促進ふくしま協同組合協議会が、会場を訪れた消費者300人を対象に行ったアンケート調査で、福島県産米の全量・全袋検査を「続けるべき」とする回答が、前年の調査から6.4ポイント減の50%であったとのこと。この動きを楽観的にみるべきではないことを、件の段ボールが教えている。
 風評被害を根絶するためには、「続けるべき」がゼロとなっても続けるべきである。
 原発の、東電の、政府の、犯した大罪を糾弾し、この悲惨な出来事を風化させないためにも。
 「地方の眼力」なめんなよ

 

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