【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第49回 子どもの子守り2019年4月18日
幼い弟妹のいる農家の子どもには子守りの仕事が与えられた。
それで、農村部の小学校には弟妹をおんぶしてくる子どももいた。学校も赤ん坊をつれてくるのを許していた。私の入った学校は町場にあったのでそんな子どもは少なかったが、それでも高等科(小学校六年を卒業した後さらに2年間教育する課程)に毎日子どもをおんぶしてくる女子生徒がいた。なお、私の生家から数km離れた純農村部の小学校を卒業した高校のときの同級生から聞いたら、農繁期に赤ん坊を学校に連れてくる人が同じクラスに2~3人は必ずいたものだったと言う。
どこの家でも兄弟が多く、しかも農家には専業主婦として幼児のめんどうを見ることのできる母親などはおらず、働けるものはすべて田畑で働いていて赤ん坊のめんどうを家でまともに見ることはできなかったのである。家事や家の周りの農作業に専従する祖母などがいて子どもの世話をしてくれればいいが、いなければ学校に連れて行かなければならなくなるのである。
もちろん、祖母がいても赤ん坊の世話にかかりっきりになるわけにはいかない。大家族(たとえば私の生家の場合家族10人、うち5人は私を先頭とする子どもだった)の食事、洗濯等々あらゆる家事労働をしなければならないし、屋敷畑での作業もあるからである。だからといって、いつまでも赤ん坊を「えずこ」(乳児を入れておくためにわらで編んだ丸いかごで、東北地方で使われたもの、地域により呼び方が若干異なるが、山形県の民芸品「いずめこ人形」を見てもらえばどのようなものかわかろう)に入れておくわけにもいかない。今のように保育所や幼稚園があるわけはなし、たとえあったとしてもお金がなくて入れられなかったろうが。
地主や金持ちのなかには子守りを雇うものもいるが、そんなことは普通の農家にはもちろんできるわけはない。
子守りとして使えるのは赤ん坊の兄姉などの子どもである。しかもただである。それで子守りは学校に行っている兄姉の仕事となる。学校から帰ってくるのを待っていてすぐに赤ん坊をおんぶさせられる。さらに、歩くようにはなってもまだ手のかかる幼い弟妹のめんどうも見させられる。
私もそうだった。小学一年から妹をおんぶさせられた。田植えや稲刈りのときは昼飯を田んぼで食べるほど忙しく、母も一日家にいないので、土日や農繁期休みになると祖母に言われてまだ乳児だった妹をおんぶして、田んぼに母の乳を飲ませにいった。
また、妹をおんぶするばかりでなく、歩けるようになった他の幼い弟妹をひきつれて遊びにいかなければならなかった。これが毎日の仕事だった。
近所の友だちと遊んでいるうち、おんぶひもが肩に食い込んでくる。鬼ごっこをすると、背中が重いのでよく走れず、すぐつかまってしまう。妹が泣いているときなどはかくれんぼの仲間入りはできない。泣いていなくとも笑ったり騒いだりするのですぐ見つかってしまう。おなかをすかしていたり、おしめがぬれていたりすると、いくらあやしても泣きやまない。こっちが泣きたくなってくる。
ようやく背中で眠る。ほっとして家に戻り、祖母に寝かせてもらう。そのまま寝ればいいが、ぐずって起きてしまったら悲惨である。もう一度おんぶしなければならない。うまく寝たら万歳である。軽くなった背中に押されるように外に出て、みんなとゆっくり遊ぶ。妹は遊びにじゃまだった(注)。
私ばかりでなかった。子どもをおんぶさせられている仲間は近所に何人かいた。だからといってみんな仲間はずれにはしなかった。私たちに特別ルールをつくってくれて(たとえば鬼ごっこで捕まえられても鬼にはしないなど)いっしょに遊んだものだった。
(注)
その妹は幼いままに病気で死んでしまった。じゃまだなどと一瞬でも思った私、しかも病気の原因となったはしか(麻疹)を学校から持ってきてうつしてしまった私、これが80歳を過ぎた今でも深い傷のように私の心に残っている。その間の事情については私のブログで以前書いているので、下記を検索して読んでいただければ幸いである。
「随想・東北農業の七十五年」、2010年12月14日掲載「子守り―幼い妹の死―」
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