【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(129)「微笑み」の背景2019年4月26日
学術の世界に身を置いていると、日常生活では殆ど気にしないことを深く考えざるを得ない状況に直面する事がある。例えば、「ある組織ではいつも立派な計画が出来るが、立派な業績にはつながらない…」などということは非常に多い。これをどうとらえるかは、結構やっかいである。
例えば、「論理性」や「客観性」という論点がある。「論理性」とは、その計画の筋道が通っているかどうかである。つまり、AならばB、BならばC、よってAならばC、という形で綺麗な論理が成立する場合、少なくとも読み手にはわかりやすい。計画に賛成か反対かとは別の話である。「客観性」は、使用されているデータや分析手法などが信頼に足るかどうかである。だが、実験室の中とは異なり、社会現象にはこうした「論理性」や「客観性」がどこに存在するのかわかりにくい事例が数多く存在する。
仮に「しっかりとした計画」を作ることが「立派な業績」につながるとしよう。それでも、その計画内容の妥当性や実現可能性、そして「何をもって『しっかりとした』と判断するのか」すら、突き詰めて考えると曖昧な事が多い。
現実的な対応としては、担当者や関係者が何度も文章や内容を推敲し、最終的には多くの人の視点や意見を取り入れ合体ロボットのようになるかもしれないが、こうした過程を経たものを組織としては「しっかりとした」という「客観性」を獲得したと見做すことになる。非常に面倒だが、企業における稟議や業績評価というシステムは、これと似ている。ただし、行き過ぎると業績よりも計画策定自体が目的となり主客が転倒する。実はこうしたケースも多い。
「立派な業績」も同様である。何を基準に「立派な業績」とし、評価を「測定」するのかという問題が存在する。これは大昔から言われてきた「異端とは何か」にも通じる。基準や規範がどこかにあるからこそ、そこから逸脱すると異端や立派と見做されるのだが、それが目に見えず、抽象的かつ状況や相手との相互作用により変動する場合には判断は非常に面倒なことになる。
さらに、「しっかりとした計画」からは本当に「立派な業績」が出るのかというそもそも論のような論点もある。ビジネスでは偶然性も大きな影響を及ぼすことがある。
対象となる社会現象を構成する様々な要素の全てが測定可能であり、その要素間の規則性や因果関係が綺麗に求められる場合は「美しい」結果が出るかもしれないが、そのようなことは本当にあるのだろうか...と考えると際限がない。
現実には、「立派な業績」やら「奴は優秀だ」などについて、組織内で有形無形の形で共有されている基準や規範が存在しても部外者には見当がつかないことが多い。また、同じ組織内ですら、ある行為は特定の人や状況では賞賛されても、別の人や状況ではとんでもない行為と見做されることなどがあり、行為の評価は文脈と、その文脈における当事者の解釈に影響される。元々、現象面では全く同じ行為が解釈により意味が全く異なることは良く知られている。この違いを「しっかりとした計画」と「立派な業績」はどこまで見分けることが出来るのだろうか。
※ ※ ※
最後は日常生活の小話である。閉店間際のスーパーのレジに並んだ2人の男性(1人は筆者、1人は元気一杯の男子学生で彼女がそのレジで働いている)がいるとしよう。
同じ30%引きの特売弁当を購入し、会計を終了した際、レジでバイトしている彼女が、「ありがとうございます!」と言いながら微笑んでくれたとしても、その意味は全く異なる。筆者には、「いつも(閉店間際に)お買い上げありがとうございます!」なのか、「あーらら、先生こんなもの買ってる(笑)」なのか、「お疲れですね~」なのか、全く何も考えていないマニュアル的反応なのか...。
これに対し、彼氏である男性に対する微笑みはいくつもの違った意味があるはずだ。これは表面からは全くわからない。そうなると、行為や評価の「客観性」は、やはり存在しないのではないか、などと勝手に解釈しつつ、弁当を入れた袋を下げて家路につくこととなる。
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