【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第51回 子守り奉公・女中奉公2019年5月9日
壱季俸公証
一金〇〇圓也 外米〇俵
右之金穀ヲ以テ〇〇年度壱季俸公給料トシテ今般正ニ前借仕候
但シ俸公ノ期間ハ〇〇年旧正月廿日ヨリ仝年旧拾貳月廿日迄満壱ヶ年間俸公可仕候
勿論俸公中ハ御貴殿ノ指揮命令ヲ堅ク相守決シテ違背不仕萬事ニ気ヲ付ケ相勤メ申候
若シ俸公中病気又ハ他出不在等ニテ一日タリ共日欠出来候場合ハ相当ノ代人ヲ以テ差上
若シクハ相当日雇賃金ヲ以テ勘定ニ相及ビ候モ異議申間敷候
依テ後日ノ為メ保証人連命ヲ以テ壱季俸公証一札如件
昭和〇〇年□月□日
××村×× **番地
右俸公人 ○○ ◎◎
右保証人 ○○ ▽▽
右保証人 △△ ××
◇◇ ◆◆殿
上記の文書はまだ旧漢字が使われていた時代に宮城県北の農家の間で交わされた年雇の契約書(金額・年月日・住所氏名以外原文のまま)である。
このような内容の文書が子守りを雇った家と雇われた家との間で交わされたかどうか、口約束だけだったかはわからないが、いずれにせよこの文書に書いてあるように人身売買同然に親の受け取る前借金をかたに子守りとして働かされたものだった。
かの有名なNHKテレビの朝の連続小説『おしん』、あの主人公である貧しい小作農家の娘おしんも、こういった文書を親が交わしたかどうか私の記憶にないが、ほぼ同様の条件で子守り奉公に出されたのだろう。しかも小学校に入る年齢の子どもがである。当然就学もさせられなかった。
そういうと、これは「テレビドラマ」、作り話の世界のことであって、現実にはそんなことはなかっただろう、たとえあったとしてもそれは明治以前だろうと言われるかもしれない。しかし、現実にも、明治以降も、あった話だった。
おしんの故郷とされたのは山形の最上川上流の村だが、そこから東に十数㌔離れている村に大正時代に生まれた私の母からこんな話を聞いたことがある。
子どものころ、実家のすぐ近くの家に里子と言う名目で子守りに雇われていた隣村の女の子がいた、かなりのきかん坊で、小学校低学年(といっても子守りなので学校にもろくにやられなかったのだが)なのにガキ大将で近所でも有名だった。赤ん坊をおんぶしながら、子どもの遊び場となっている母の実家の屋敷うちにある観音様の境内の上から、近所の子ども男女を問わず全員に棒を振り回して指揮命令しながら遊んでいた。そのうち隣村の生家に戻っていったが、そこでもまた苦労し、どこかに連れていかれていなくなった。結局は苦界にまで身を沈めさせられたとのことだが、そこからはいあがって北海道のある地域で企業を起こし、戦後は議会の議員をつとめ、さまざまな側面から地域の発展に寄与し、表彰されたとのことだ。
「おしん」と同じように、その貧しさから学校にもろくに行かされなかった子どもがいたのである。しかも「おしん」や今あげたような成功事例などはほんのわずかであったことはいうまでもない。
なお、こうした子守り奉公・女中奉公は、かつての手労働段階の家事・育児労働の厳しさもあって都市の富裕層・高級サラリーマンの家庭の需要があり、農村部の若い女子の就業機会となった。戦中、戦後の一時期もそれが続き、その女中を描いた小説や映画もあり、たとえば由起しげ子の小説で1955年映画化された左幸子主演の『女中っ子』(注1)、最近では山田洋次監督により映画化された中島京子の小説『小さいおうち』(注2)がある。
前者は秋田、後者は山形の寒村の農家の娘、ともに雇われている家の子どもたちには慕われていると描かれてはいるが、私などには大都会に仕える・東京の下にいる農村・東北を感じさせ、さらに前者は窃盗を疑われ、後者は不倫の手伝い、あまり好きになれない小説・映画である(私の読み方・観方が悪いのかもしれないが)。
もちろん、遊郭に売られるなどというよりは女中や子守りははるかにいいのだが。
子どもの手伝い仕事の話からまたもや農家の食い扶持減らしの話になってしまったが、次回からまた農家の子どもが家の中で与えられた仕事の話にもどろう。
(注)
1.由起しげ子『女中っ子』、新潮社、1955年。
映画『女中っ子』、監督・脚本:田坂具隆、原作:由起しげ子、脚本:須崎勝彌、主演:左幸子、1955年。
2.中島京子『小さいおうち』、文藝春秋社、2010年。
映画『小さいおうち』、監督:山田洋次、原作:中島京子、脚本:須崎勝彌、主演:松たか子、2014年。
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