【近藤康男・TPPから見える風景】日米貿易交渉に見る私物化・ご都合主義・戦略欠如2019年6月13日
◆通商交渉に、放置主義ではなく法治主義を
5月27日の日米首脳会談後、俄かに"8月密約?説"が浮かび上がり、野党が声高に追及を始めようとした。しかし、"8月密約?説"だけでは尻すぼみになることは見えており、もっと本質的な追及が必要ではないだろうか?
国民民主党が通商交渉における情報開示を求める法案を検討しているという。条約について憲法との比較優位についていくつかの条項を根拠に諸説ある一方、国内法に対しては批准・関連法整備により制約を課すものとなっている。また批准にあたって衆院優位が認められている。
それだけの重みを考えれば、情報開示に留まらず、また出口だけに留まることなく、EUや米国のように、交渉開始の権限付与や交渉の目的を含め、入り口から出口まで、一貫した包括的な手続き全てを法で定め、法に基づいて通商交渉を進めることが求められて然るべきだろう。では、安倍政権の振る舞いはどうか?
◆政治の全てを私物化、似た者同士の安倍・トランプ氏
ご都合主義で"解散の大権(憲法7条曲解の大いなる勘違い)"を振りかざして野党に揺さぶりを掛ける安倍首相は、これまでも国民の権利である選挙を自分の政権維持のために私物化してきた。そしてこの春目立ったのは、まず外交をトランプ氏にすり寄るための社交に落とし込めるという私物化だ。全てを政権維持に利用するというのはどの国の為政者もやることだが、トランプというWTO違反何モノぞとばかりに掟破りに邁進する異形の大統領に、ここまで接待する国はドイツ・フランスを見るまでもなく、唯一日本だけだ。
そして今度は、常に"完全に一致"する両首脳は、国民の暮らし、地域、主権に大きな影響を与える通商協定も、選挙優先の私物化だ。
2人とも思い付きで政策を打ち出し、声高な掛け声で"やってる感"を振りまき、結局株価以外に目立った成果は何も無い。"外交の安倍"も彼方此方飛び回っているだけで、政権の存在意義を掛けた拉致問題や北方領土を始め、冷静に振り返ると外交での成果らしい成果はゼロとしか言いようがないだろう。国内問題でも社会保障・税・財政など長期政権だからこそ取り組んで然るべき課題は放置されたままだ。
◆政府の交渉目的は何なのか? "TPP限度"と"TPP越え"の非対称性
昨年9月の日米共同声明は、真面目に読めば交渉範囲・分野は青天井(第4項)、その後12月に公表された、TPP越えを求める米国の「対日交渉目的」22項目がこの"青天井"を踏まえたものであることも明白だ。
ところが、強く出られると妥結を求めてしがみ付く習性のある政府は、唯一「農林水産品の市場アクセスは過去の経済連携協定での譲許内容が最大限であることを(米国も)尊重する」(第5項抜粋)ということを金科玉条のように繰り返しているだけだ。
米国はしがみ付くことなく、TPP越えの要求を繰り出している。最近の事務レベル協議では、同じ第5項で(日本も尊重するとした米国の)「自動車の産業の製造と雇用の増加」に関連して、TPP原協定で合意した関税撤廃など素知らぬ顔で、TPPでの"部品の定義"の範囲を大きく超える膨大な数の部品の関税継続を求めている。
"TPP限度"対"TPP越え"を出発点に交渉すれば、着地点がどうなるかは目に見えているだろう。
選挙いのちのトランプ氏がそのために妥協することはあるかもしれない。しかし再選の目途が見えればいつでも"TPP越え"と22項目を求める交渉はいつでも再開されるだろう。
◆"TPP限度"で繰り返される譲歩の連鎖、米国のTPP復帰に必然性なし
戦略のないまま曖昧な共同声明だけを金科玉条とし、包括的な「交渉目的」もないままの交渉は、戦略なしに戦うに等しい。「TPP限度」を掲げることは、これまで日豪EPA⇒TPP⇒日EU・EPAという流れ同様に、譲歩の連鎖の拡大しかもたらさない。
トランプ氏がTPPを無視するのは、そこに利益があるからで、彼からすれば当然でしかない。そして密約の有無は、米国の立ち位置にはそれほど大きな意味を持たないだろう。
韓米FTA・NAFTA見直しから、米中・米EU、日米までの2国間交渉を獲得すれば、米国が締結済みの20ヶ国とのFTAを加え、今まで以上の貿易圏となる。TPPに復帰してもベトナム、マレ-シア、ブルネイ、NZが追加されるだけであり、それ程魅力は無い筈だ。米国の戦略にとって、成長のアジアに手を広げるために日本を必要とし、利害を共有する日本も米国を必要としていたTPPだが、トランプの仕掛けた貿易戦争ゆえに、米国にとってTPPの位置づけは大きく変質したことを日本政府は認識すべきだろう。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日