【坂本進一郎・ムラの角から】第13回 属州の役目をするアメリカ2019年6月26日
(1)ローマ帝国の農業は三者三様
マックスウエーバーは自著『古代文化没落論』の劈頭、「ローマ帝国は外から滅ぼされたのではありません」と筆を起こした。この本のテーマは、古代奴隷制がいかにして潰れていったのかということを明らかにすることである。
古代ローマ帝国は、奴隷制の上になり立っていた。ローマは帝国は、周辺諸国と戦争をし、貴族は勝つと戦利品として奴隷を手中に収めたのである。しかし、貴族は商売を禁じられていたので、土地に投資し大規模農場(ラティフンジューム)を直営した。その農場の働き手は奴隷であった。ローマ帝国が周辺都市国家と戦争をし、勝利している間は奴隷の供給は潤沢であった。その結果奴隷制は恙(つつが)なく行われた。ただ奴隷は畑作とは関係のない立場にある。彼らは親方(貴族)にムチ打たれた時だけ働き、親方がいないときはさぼる。とうぜん適期作業は不可能である。奴隷農業は非生産的である。
だが戦争がなくなると、奴隷の供給は途絶える。しかもヨーロッパ内部にローマ帝国が進出していくと帝国の重心はヨーロッパ内部に移っていく。するとますます奴隷の調達は難しくなる。この結果奴隷制は消滅してしまう。
この奴隷制崩壊は、マックスウエーバーによれば古代社会を巻き込んでの出来事だったので画期的であったという。これまでの奴隷は無所有、無権利であったが身分は不自由ではあったが、徐々に賦役農民に上昇していった。この画期的事件をマックスウエーバーは「家庭」と「財産」が奴隷に返還されたと表現している。もちろんこの話はマックスウエバーの大胆な構図であろう。
一方戦争に駆り出された自由農民のコロヌスは零落して隷属農民になった。彼らは貴族がコロッセウムで楽しんでいるとき、ルンペンプロレタリアートになって刹那を楽しんでいたのである。だがコロヌスは自由農民として適期作業をこなしたので、ルンペンプロレタリア化はローマ帝国の農業にとって大打撃だ。
ところでローマにいくとコロッセウム脇の道路を車がひっきりなしに行き来している。わたくしもこの道路を何度も行き来した。行き来するうちふっと気が付いたことがある。このコロッセウムを挟んだ空間の距離は馬車の通行に都合のいい距離のようだ。ローマの元老が馬か馬車に乗って隣人を訪ねるのにいい距離なのだろう。そう気が付いた。それならわが奈良の明日香はどうか。ここも馬の距離なのかもしれないと思ってしまう。
(2)属州まがいのアメリカ
属州とはローマ本国以外のローマ領、つまり植民地のことである。逆に言うとローマ帝国は外地との戦争に勝利すると莫大な戦利品が貴族の元に流れ込んだことを意味する。地図を広げると属州は何十とある。つまり、属州は貴族にとって戦利品の山を手中にしたことを意味する。そして戦争に駆り出されたのはコロヌスであった。彼らはあまりにたびたびの戦争に引っ張り出され、満足に農場を管理できなくて、農地を貴族に寄進したり売却したりして小作人や職業軍人になるものも現れた。ラティフンジュームの非生産性を考えると、これは食糧生産の放棄であった。
そのほかにも属州からは税金の替りとか様々な形で、農産物が流れこんだ。属州の安い農産物が流通するとローマ生産の農産物価格が下がった。そこでコロヌスはじめラティフンジュームまで、穀類は採算が合わないのでブドウ、オリーブ、果樹の換金植物に変えていく。
この経緯は1965年の農産物自由化以降の日本国内の動きに似ている。その点で、1993年のコメ自由化は決定的であった。それ以前にも私も経験したことだが大豆、小麦、大麦の穀物類は採算が合わず放棄された。その代わり作られたのがイチゴなどのハウスものであった。1993年の自由化決定は農業の放棄を内外に宣伝したようなものであった。今後はイチゴなどのハウスものに転換せよと言っているようなものだからである。
しかも農産物の自由化には、それが「善」と信じるアメリカの「押し売り貿易」があった。アメリカの自由化の圧力による自由化で、日本国内の農産物価格が下がり、イチゴなどのハウスものに転換したのはローマの末期に似ている。アメリカの「押し売り貿易?」は「属州」の役目を果たしたといえよう。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
(394)Climate stripes(気候ストライプ)【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年7月26日
-
地域医療の実態 診療報酬に反映を JA全厚連が決議2024年7月26日
-
取扱高 過去最高の930億円 日本文化厚生連決算2024年7月26日
-
【人事異動】JA全厚生連 新理事長に歸山好尚氏(7月25日)2024年7月26日
-
【警報】果樹全般に果樹カメムシ類 県下全域で最大限の警戒を 鳥取県2024年7月26日
-
【注意報】イネに斑点米カメムシ類 県下全域で多発のおそれ 山形県2024年7月26日
-
今が旬の「夏酒」日本の酒情報館で提案 日本酒造組合中央会2024年7月26日
-
ヤンマーマルシェ、タキイ種苗と食育企画「とりたて野菜の料理教室」開催 カゴメ2024年7月26日
-
「ごろん丸ごと国産みかんヨーグルト」再登場 全国のローソンで発売 北海道乳業2024年7月26日
-
物価高騰が実質消費を抑制 外食産業市場動向調査6月度2024年7月26日
-
農機具王「サマーセール」開催 8月1日から リンク2024年7月26日
-
能登工場で育った「奇跡のぶなしめじ」商品化 25日から数量限定で受注開始 ミスズライフ2024年7月26日
-
東京・茅場町の屋上菜園で「ハーブの日」を楽しむイベント開催 エスビー食品2024年7月26日
-
鳥インフル 米国オハイオ州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2024年7月26日
-
大玉すいか販売大幅減 小玉「ピノ・ガール」は前年比146.8% 農業総研2024年7月26日
-
千葉県市原市 特産の梨 担い手確保・育成へ 全国から研修生募集2024年7月26日
-
水産・農畜産振興 自治体との共創事例紹介でウェビナー開催 フーディソン2024年7月26日
-
新規除草剤「ラピディシル」アルゼンチンで農薬登録を取得 住友化学2024年7月26日
-
自由研究に「物流・ITおしごと体験」8月は14回開催 パルシステム連合会2024年7月26日
-
高槻市特産「服部越瓜」の漬け込み作業が最盛期2024年7月26日