【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第62回 籾摺りと俵詰め2019年7月25日
動力籾摺機は戦前からあった。近所の農家との共同所有だが、生家の小屋が大きいので頼まれてそこに保管していた。利用は持ち回りで、順番を決めて自分の家の小屋に運んで利用することにしていた。この共同には小作農も入った。年末までに玄米にして米の検査に通った米でないと小作料として地主が受け取らなくなっていたからである。カネがあろうとなかろうと導入して利用せざるを得なかった。だからみんなで金を出し合って導入しようということになったのだろう。
この共同利用は地主制のなくなった戦後もかなりの間続いた。なるべく早く籾摺りを終えて供出し、早場米奨励金を得ようとしたからもあったのだろう。

戦後かなり過ぎてからになるが、宮城県内で農家調査をしたとき、「賃摺り業者」という言葉を聞いた。動力籾摺機を持ち、料金をとって農家の籾摺りをやってやることを一つの仕事にしているものを言うとのことだった。さきにも述べたようにどうしても動力籾摺機が必要だが、高価で買えないので、小金をもっているもの(農家である場合もあればそうでない場合もある)が機械を購入し、料金をとって籾摺りを受託するようになり、そこにみんなが頼んで籾摺りをやってもらうようになったらしい。
宮城出身の家内に聞いたら、家内の生まれた町では賃摺り業者のことを「発動機屋さん」と呼んでいたと言う。石油発動機と籾摺機を持ってきて委託農家の庭に据え付け、籾摺りをしてくれるのだそうである。エンジンをかけるために紐を何回もまわし、そのうち大きな音を出し始めるのを家内はおもしろがって見ていたという。山形では電動機だったのだが、宮城県南の方は石油発動機だったようである。移動の簡単さや電力をひく資金の関係からだろうか。
もちろん農家の個別所有もあったが、当時としては籾摺り機はかなりの高額、今のような賃摺りあるいは共同所有・持ち回り利用という形態が多かったようである。
こうして籾摺りした結果出てくる玄米は、米選機にかけて屑米やごみなどを取り除き、俵に詰められる。説明するまでもないだろうが、「俵」は米など穀物の出荷・保管・運搬のために稲わらを円柱形に編んで作った袋であり、俵一つには四斗の玄米を容れることになっていた。当時米は今のように重量ではなく体積で、しかも当時の尺貫法で計量・取引されており、玄米の場合は一升枡(ます)では40回(一斗桝であれば4回)測って俵に詰め、それを一俵として流通、貯蔵していたのである。
こんなことは常識、みんな知っておられるとは思うのだが、もしもご存じなければ、岩手県中西部の山間部・和賀町沢内地区に『沢内甚句』として知られている盆踊り唄の一番の歌詞の裏の意味が理解できないことになる。
「沢内三千石 お米の出どこ
枡(ます)ではからねで 箕(み)ではかる」
これがその一番の歌詞なのだが、沢内は「枡」などで量ってはいられない、「箕」のような大きな容れ物でおおまかに量らなければやっていけないほどたくさんお米がとれる豊かなところだと唄っている。
しかしそれは表面的なもの、実は天保の飢饉のとき年貢を収めることができず、村の美しい娘「お米(よね)」を藩に差し出して年貢の「お米(こめ)」の身代わりとした、沢内甚句は実はそれを唄っている。つまり領主は年貢を「枡」で量らないで「箕(み)」=(およねという娘の)「身(み)」で量ったことになる。こういうことを歌っているのだ。
本来からいえばうれしい収穫、そして籾摺り、しかし冷害、干害、水害、病虫害等々で籾摺りをしてもまともに米が穫れない年もあった。それでも年貢や小作料は納めないわけにはいかなかった。それでは手元にまともに米は残らない、家族は食っていけない。
『沢内甚句』の四番目の歌詞はこう唄う。
「沢内三千石 冷水がかり
まけてたもれや 御家人殿」
そもそもこの唄はこれを一番言いたかったのではなかろうか。
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