【森島 賢・正義派の農政論】香港が問う自由と民主主義2019年10月7日
香港の大規模デモを、マスコミが毎日のように報じている。しかし、その内容は警察側が拳銃で撃ったとか、デモ側が火炎瓶を投げた、とかいうテレビ向きで活劇まがいの報道ばかりである。つまり、悪代官が善良な庶民を苦しめている、という類いで興味本位のものばかりである。
たしかに、事態は憂慮すべきことである。だが、それは、表面的な事柄に過ぎない。
いったい、デモ側は何を要求しているのか。そして、香港政府側は、なぜその要求を拒否するのか。そこの深部を見極めた報道は、ほとんどない。一方的に非難するだけで、だから、双方が受け入れられる方策を提案できない。
提案できれば、それは、香港の資本主義体制の長所と、中国本土の社会主義体制の長所とを、ともに生かした新しい社会体制の提案になるだろう。それは、人類社会が歴史的な進化へ向かう、画期の始点になるに違いない。
デモ側は、自由と民主主義を要求している。だが、政府側は疑っている。デモ隊のなかには、米国の国旗を振りかざしている一群もいる。だから政府は、デモ側の要求する自由と民主主義の具体的内容が、中国の国是である社会主義を否定するものではないか、と疑っている。
それは両者で、とことん話し合えばいい。だが、そうしていない。
デモ側は、その要求が多数の人たちの要求であることを示威したい、と考える。それは、当然の権利である。これを否定する人は、独裁主義者だけだろう。民主主義国家なら、それは国民が持っている当然の権利である。政府はそれに応える義務がある。だが、そうしていない。
デモ側の一部には、暴力的に問題を解決しようとする勢力がある。政府は、それを権力的に、つまり暴力的に抑え込もうとしている。
ここに悲劇の始まりがある。それは、香港だけにあるのではない。民主主義国といわれる国の、どこにでもある。
◇
「自由」と「民主主義」を、香港に即して考えよう。「民主主義」を「平等」と言い換えて、それに「博愛」を加えれば、フランス革命のスローガンになる。
平等は、近代以後、自由と民主主義とに並ぶ崇高な社会理念である。しかし、平等は、しばしば自由と相容れないことがある。
さて、香港には、どんな自由があって、どんな自由がないか。
一昨日、香港政府は覆面禁止法を発動した。デモの過激化を阻止し、警察官を自衛させるためだという。最近、政府はデモを不許可にしているが、違反者を特定し、拘束しやすくしたいのだろう。これは、表現の自由の剥奪である。これは、民主主義の根底からの否定である。それどころか、暗黒の監視社会の到来を招く。
その一方で、香港の自由には、別の側面がある。自由の必然的な結果であるが、格差が耐え難いほどに拡大している、という側面である
◇
香港には大富豪もいるし、貧民ともいえる低所得の弱者もいる。平等ではない。もちろん大多数は弱者である。その大多数の弱者がデモを行っている。
香港の格差は、住宅を見ればよく分かる。
弱者は、結婚しても住む所がない。だから、狭い住宅で両親や兄弟姉妹といっしょに住むしかない。そうした弱者がデモに参加している。
一方、大富豪は豪華な大邸宅に住んでいる。大邸宅を買ったまま空き家にしておいて、数年後に売って儲け、さらに大金持ちになる大富豪もいる。
これは、「自由」の必然的な結果である。それでもデモ側は、無条件で自由を要求しているのか。
◇
もしも香港政府が真に民主的だとすれば、弱者の住宅の要求を政策に取り入れるはずである。公営住宅を潤沢に作ればいい。そうすれば、住宅価格は暴落するだろう。弱者は喜ぶだろう。だが、大富豪は喜ばない。だから、政府はそうしない。
ここには、政府高官と大富豪との癒着が疑われる。政府高官が大富豪だったりもする。
だが、習近平主席の初心は、官僚の腐敗撲滅ではなかったか。
◇
民主主義には、このような弱点がある。主権は国民にあるというが、そうなっていないことが多い。経済的強者が国民の主権を侵している。
米国のような資本主義国では、資本家が国民の主権を侵しているし、中国のような社会主義国では、官僚が国民の主権を侵しやすい。
いったい、デモ側は、どんな民主主義を要求しているのか。資本主義型の民主主義を要求して、格差を容認するのか。それとも格差を否定し、平等を尊重する社会主義型の民主主義か。
もしも、社会主義型を要求するのなら、官僚の支配を徹底的に排除しなければならない。
それには習主席も、強力に賛同するだろう。
◇
香港では、11月24日に区議会議員の選挙がある。香港を18の選挙区に分け、定員が合計で452人の選挙である。すでに立候補の届け出が始まった。ここでデモが、草の根と蔑視されている弱者のすべてから試される。デモ側が勝てば、香港の状況は一変するだろう。
そうなれば、中国本土の農業者も、香港の事態を、いままでのように、他人事として傍観しているのではなく、習主席とともに、熱烈な拍手を送るだろう。
それは、非暴力による社会改革の手本になる。それを世界に示すことになる。
そうなるように、日本の虐げられた弱者たちも、世界中の弱者たちとともに刮目し、熱い声援を送ろうではないか。
(2019.10.07)
(前回 文政権の岩盤支持層)
(前々回 外交は内政の延長)
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