【森田実の政治評論】政府に問われる防災政策の大転換と治山治水の推進2019年10月31日
「過ちては改むるに 憚ること勿れ」(孔子)
政府が今度すべきことは被災者の救済であり被災地の復旧復興です。このことに全力を尽すべきことはいうまでもないことです。
しかし、それだけでよいのでしょうか。私は復旧復興だけで済ましてはならないと思います。どうしてこのような大災害が起きたのかを研究し、反省すべき点があれば反省し、改めるべきは改めることが必要です。
検討すべきことの一つは、令和台風19号のような超大型台風が今後も到来するか否かですが、防災対策は今後も到来することを前提にしなければなりません。超大型台風が来ても耐えられる強靭な日本社会をつくることは政府の責任です。
台風19号は都市も山も同時に襲いました。数多くの河川が氾濫し、平穏な国民生活を押し流してしまいました。都市と山とを同時に襲うような超大型台風には、今の日本の山、河川、都市機能はほとんど耐えられないのです。
政府には、次の世代の安全安心を守る責任があります。たとえ今すぐ間に合わなくても、安全安心社会をつくるために努力しなければならないのです。
◆治山治水に取り組むべし
防災において大事なのは「治山治水」です。長い人類の歴史を振り返りますと、政府の最大の仕事は「治山治水」でした。
たしかに、人類の自然災害との闘いはいつまでもつづきます。この闘いに終わりはありません。しかし、近代以後の日本の歴史を振り返りますと、第二次大戦中と戦後の高度経済成長期を通じて、治山治水の政府の努力は不十分でした。
戦時中は山の将来を考えることなく軍事上の必要という理由で、過度に大量の木を伐採しました。その上十分な植林を怠りました。成長の早い木のみを植え、森の強靭化をなおざりにしました。
戦後の高度成長期においてもこの傾向は変わりませんでした。ポスト高度成長期のバブル時代においては、政府は林業を見捨てるような極端な新自由主義政策をとりました。この結果、山林は荒廃しました。山の保水能力は弱まり、土砂を固める力は衰えました。日本の山林は互解しやすくなってしまったのです。
戦時中から戦後を通じて、河川対策もおくれました。第二次大戦以前は、運輸省の中心は河川局でしたが、戦後は道路局になりました。河川の整備はあとまわしにされました。
台風19号は大被害をもたらしましたが、この原因は、この百年間「治山治水」をなおざりにしてきたことにあることは明らかです。安倍内閣は「治山治水」が不十分だったことを率直に認め、今後「治山治水」に政府の総力をあげて取り組むことを誓うべきです。まさに「過ちては改むるに憚ること勿れ」です。
◆金原明善と老子
自然災害を起きた時、条件反射的に思い出す人物が二人います。一人は明治期の治山家、治水家、実業家の金原明善です。明善は「あばれ天竜」と言われた天竜川の水害を防ぐため、私財を投じ、天竜川の堤防整備につとめました。つぎに明善は天竜川流域の山林を整備するため大規模な植林事業を行ないました。明善は治山と治水に生涯をかけたのです。天竜川流域は繁栄する地域に変貌しました。明治政府はこの明善の事業に協力しました。
明善のような傑出した偉人は稀ですが、江戸時代、明治時代には大小の差はあれ、篤志家は少なくありませんでした。しかし現在は金原明善的偉人はほとんどいなくなりました。社会全般に「自分さえよければ思想」が蔓延してしまっているからです。
多くの大企業は、自分の企業を守るために巨額の資金を貯め込んでいます。その額は4百数十兆円に達しています。巨額の資金を抱えている大企業が一社でも二社でも、この資金を防災減災とくに治山治水のために自己犠牲的に活用することになれば「自分さえよければ思想」に一撃を加えることができます。
もう一人は中国古代の思想家「老子」です。私がまず思い起すのは「老子」の五章です。こう記しています。「天地は不仁。万物を以て芻狗と為す」です。「天地自然には仁の心などない。無慈悲だ。万物を藁で作った犬ころのように、用が済めば冷酷非情に捨ててしまう」という意味です。天地自然は人類に対して容赦しないのです。時には、「これでもかこれでもか」と言わんばかりに人類に苦難をもたらします。この冷酷な現実をわれわれは認めなければなりません。
人間は自分たちの生命と社会生活を守るため、自然災害に立ち向かわなければなりません。
最近は、山の奥深くにまで分け入って山の生態を調査する者はいなくなりましたが、しかしやめてはいけません。山と河川を見守り調査する要員を配置すべきです。
それ以上に大事なことは農業と林業の再建をはかることです。今の政府の政策を根本から見直し、治山治水の大事業を開始すべきです。安倍総理には国の国土政策の根本的な転換を真剣に検討してほしいと強く要請します。
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