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コラム:リレー談話室・JAの現場から

【JCA客員研究員 伊藤 澄一】

2019.11.12 
【リレー談話室・JAの現場から】スーパー台風の足跡一覧へ

◆姿なき〝国難〟に備えを

 
 令和の3台風(9月の15号、10月の19号・21号)により、関東甲信から東北の広範囲に甚大な被害が発生した。15号では千葉・神奈川で電柱約2000本が損傷するなど93万戸が停電した。19号は1都12県に初の「警戒レベル5(すぐに避難)」の特別警報が出されたが、92人が亡くなり3人が行方不明となった。
 千曲川、阿武隈川を始め71河川の140か所の決壊、延べ285の河川で水が堤防を超える「越水」、20都県での884件の土砂災害などであった。11月になっての農林水産業の被害額は3台風で3000億円を超えた。これらの数値は限定域でのゲリラ豪雨や線状降水帯豪雨と異なる大きさである。
 台風は北上するにしたがって勢いが弱くなるが、19号は発生した10月6日の中心気圧995ヘクトパスカル(hpa)が翌日の7日に915hpaと急降下して10日までその勢力を維持。12日19時頃に伊豆半島に上陸して中心は関東上空を進み福島を抜けたが、暴風雨圏は非常に広かった。箱根では48時間で1000ミリ超の国内最高の雨量を記録するなど、各地で観測記録一位となる豪雨であった。
 19号では、荒川・利根川に近い埼玉県東部の自治体に住む筆者も「今度ばかりは」と構えた。すぐ近くの元荒川の越水、荒川か利根川の決壊をイメージした。自治体のハザードマップは74年前に関東や首都圏一円に甚大被害をもたらした「カスリーン台風」をベースにしている。気象庁やNHKによる中心気圧や風雨などの台風情報から、19号はこの台風に近い勢力だと見た。

◆     ◇

 識者は「台風19号は、海水温が50mの深さまで0.5℃~1℃も高くなった南の海域で発生して、1℃~2℃と高い海域を日本へと進み、多量の水蒸気をポンプのように巻き上げ続けてスーパー台風となった」という。
 19号では避難した人々も多かった。特別警報が出されたこともあって、カスリーン台風を経験した自治体では6000人、8000人と避難したケースもあったという。他の地域では人々が最寄りの避難所に身を寄せたが、収容しきれない事態も。避難途中の車中死も目立った。逃げないことも選択肢との課題もあったが、早めの避難と帰宅を急がないことを学んだ。二階も一時避難の場となった。東京0メートル地帯の数百万人の避難も混乱したが、事なきを得た。
 筆者の地域は道路の冠水程度で済んだ。元荒川も越水はなく、荒川と利根川の決壊も回避できた。関東各地の2日間の雨量は350㍉前後とカスリーン台風を超えた。首都圏での被害が限定的であったのは、この台風を教訓とする国の治水対策が奏功したことによる。
 荒川はその名のとおりの暴れ川、利根川は流域面積では信濃川をしのぐ。上流域には治水ダム群が、下流域に大規模な遊水地・調整池・河川敷が各所でその防災効果を発揮した。完成直前の八ッ場ダムの「試験湛水」が想定外の貯水効果を発揮した。
 13日以降になって、関東周辺の千曲川、阿武隈川などの広範な河川の決壊と洪水被害が次々と報道され始めた。しかし、10日、1か月経っても被害の全貌がつかめない。地域の道路・鉄道・橋梁が壊れ、水道・電気・ガスなども止まり、復旧に手間取っている。住宅・農地・農業施設、機械・トラクターなどの被害で今年の収穫ばかりか次年度以降の生活と生産への意欲を失った農家も多い。

◆     ◇

 長野市の千曲川決壊を調査した研究者は今回の洪水は100年に一度の災害だが、新幹線車両基地の水没も含めほぼハザードマップの示す通りだったと指摘した。本格的な治水対策は、相応の年数を必要とする。土砂災害、風害・高潮も課題だ。自治体のハザードマップは「100年に一度の異常災害」を想定するが、もはや書き換えが必要となっている。
 国土強靭化のフェーズが一変して、近未来に対してではなく、明日の防災・減災への対処が国と地域の喫緊のテーマとなった。スーパー台風の頻発や巨大地震の発生を避けることはできない。今は姿が見えていない国難と心得て備えるしかない。


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