【近藤康男・TPPから見える風景】再度、合意に値しない合意、協定に値しない協定 その22019年11月14日
臨時国会での政府と野党との質疑で、考えられないような安倍首相の振る舞いが目立つので、2点だけ触れておきたい。
行政府の長でしかない首相の立場で、国権の最高機関である国会に対して発してはならない、首相の貧しい見識が図らずも現れた野次だ。
野党の質問への、一つは「共産党!」というレッテル貼りだ。国会の場で公党の名称を野次に使うなどとは有ってはならないのは勿論、本心とはいえ共産主義に対する見識の貧しさそのものを曝け出した。もう一つは、「(森・加計問題での文書改ざん問題の質問者に対し、改ざんしたのは)あんただ!」と投げつけた言葉だ。
◆日本車・部品は"交渉継続"以外には何も合意されていない
先週の投稿に続き国会での答弁を取り上げたい。
公明・岡本議員の「自動車を除いた関税撤廃率を明らかにすべきではないか」との質問に対し、渋谷政策調整統括官は「協定では関税撤廃について交渉すると明記した。自動車を除外すると合意内容に反し、今後の交渉にも影響を与えるので控える」(11月6日衆院外務委員会)と答弁した。一見筋の通った答弁だが、考えてみると"今後の交渉に影響する"というのは、自動車の関税合意を外した議論は、関税撤廃を拒否したい"米国に塩を来ることになりかねない"という懸念とも聞こえる。しかし、"関税撤廃が前提"と言う茂木氏の強弁の通りなら何故"明確な表現"に出来なかったのか? この疑問と渋谷氏の答弁を合わせて考えると、自動車・部品の関税撤廃は、"交渉継続"以外には何も約束されていないに違いない。
茂木氏も同日の質疑で共同会派・玄葉議員に「出すべきは合意内容に沿った分析・試算だ」といみじくも言っている。関税撤廃は合意内容ではないと言っているに等しい。
◆高を括っているのか? 資料は理事会決定があれば出す、と答弁
久しぶりに11月8日(金)、外務委員会を傍聴した。"実質的な審議中断"の基となったのは、共同会派・岡田議員が繰り返し求めてきた日本車の数量規制と追加関税回避の"約束"に関する日本側の発言記録提出への茂木氏の答弁だ。
茂木氏は、「共同声明で明記されている。責任ある立場での約束として公表することも了解されている」と繰り返すと共に、「理事会での話し合いの結果には対応する」と明言した。6日の委員会での自動車・部品抜きの試算についても同様の回答をしている。
本当にそうなのか? それともどうせ理事会では与党の多数で否決されると高を括っているのだろうか?
その後理事会での動きは聞こえて来ない。
◆TPP11での緊急輸入制限(SG)発動基準見直しを思わせる"口頭約束、根拠なき解釈"
CPTPPでSG発動基準数量を米国抜きの数字に見直すことについて、協定6条の見直し規定「...場合には、いずれかの締約国の要請に応じ、この協定の改正及び関係する事項を検討するため、この協定の運用を見直す」を盾に、"各国も日本の意図を了解"、"大丈夫"と繰り返したのと正に同じだ。豪州のマッケンジ―農相は今年8月27日付日経・農業新聞の取材に「(CP)TPP再交渉は考えていない」と明言している。
加えて、公表資料についての1番の問題は、貿易協定の付属書Ⅱの米国の輸入関税に関
する文書が翻訳もされず、英文の文書も日本政府が公表していないことだ(10月8日の協定文書公表時点)。同じことがTPPの国有企業章の付属書Ⅳの留保措置(協定の主要な規定について適用しない国有企業の国別リストで、73ペ―ジに渡り掲載)でもあった。政府は「日本は留保すべき対象が無い」ということを理由としたが、実質的に日本以外の全ての国(シンガポ―ルは協定条文に続く附属書17-Eで実質化)が相当数の重要な国有企業を留保しており、(1)日本政府が国有企業の公共性ということに無自覚でいることの表われであり、(2)同時にこのような隠蔽は協定交渉の是非についての評価を国会にも国民にも出来なくする、という点で問題とせざるを得ない。
協定交渉を重ねる毎に、政府は益々、腰の引けた交渉、国民・国会への情報秘匿、いい加減な国会審議を重ねてきている。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
【注意報】小麦、大麦に赤かび病 県内全域で多発のおそれ 滋賀県2025年4月22日
-
米の海外依存 「国益なのか、国民全体で考えて」江藤農相 米輸入拡大に反対2025年4月22日
-
【地域を診る】トランプ関税不況から地域を守る途 食と農の循環が肝 京都橘大学学長 岡田知弘氏2025年4月22日
-
JA全中教育部・ミライ共創プロジェクト 子育て、災害、農業のチームが事業構想を発表(1)2025年4月22日
-
JA全中教育部・ミライ共創プロジェクト 子育て、災害、農業のチームが事業構想を発表(2)2025年4月22日
-
米の品薄状況、備蓄米放出などコラムで記述 農業白書2025年4月22日
-
農産品の輸出減で国内値崩れも 自民党が対策提言へ2025年4月22日
-
備蓄米売却要領改正で小売店がストレス解消?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月22日
-
新入職員が選果作業を体験 JA熊本市2025年4月22日
-
JA福岡京築のスイートコーン「京築の恵み」特価で販売中 JAタウン2025年4月22日
-
米の木徳神糧が業績予想修正 売上100億円増の1650億円2025年4月22日
-
農業×エンタメの新提案!「農機具王」茨城店に「農機具ガチャ自販機」 5月末からは栃木店に移動 リンク2025年4月22日
-
「沸騰する地球で農業はできるのか?」 アクプランタの金CEOが東大で講演2025年4月22日
-
「ホテルークリッシュ豊橋」で春の美食祭り開催 東三河地域の農産物の魅力を発信 サーラ不動産2025年4月22日
-
千葉県柏市で「米作り体験会」を実施 収穫米の一部をフードパントリーに寄付 パソナグループ2025年4月22日
-
【人事異動】杉本商事(6月18日付)2025年4月22日
-
香川県善通寺市と開発 はだか麦の新品種「善通寺2024」出願公表 農研機構2025年4月22日
-
京都府亀岡市と包括連携協定 食育、農業振興など幅広い分野で連携 東洋ライス2025年4月22日
-
愛媛・八幡浜から産地直送 特別メニューの限定フェア「あふ食堂」などで開催2025年4月22日
-
リサイクル原料の宅配用保冷容器を導入 年間約339トンのプラ削減へ コープデリ2025年4月22日