【浅野純次・読書の楽しみ】第45回2019年12月16日
◎新井紀子『AIに負けない子どもを育てる』(東洋経済新報社、1760円)
いずれ多くの職業がAI(人工知能)にとって代わられるという説がもっぱらです。しかし著者は、AIには致命的な欠陥があると指摘します。それは読解力の欠如です。
文章の「意味」を理解することができず、膨大なデータから「解」を選び出して当てはめていくだけのAIが、人間を超えることはできないというのです。
とはいえ安心はできません。AIに負ける場面も十分ありそうです。というのは私たちの読解力が驚くほど低いから。本書にはリーディングスキルテスト(RST)が7項目×4問=28問あるので読者はまずそれに挑戦することになるのですが、人によっては苦戦するでしょう。
回答にはタイプ別の分析が載っていて、理数系だとか中学生平均レベルだとか判定ができるようになっています。そして優秀な生徒が暗記型の勉強をして好成績をあげても読解力は高まらず、したがって大学に入ってからの伸びしろが小さいという驚くべき実態が紹介されます。
最後に幼児と小学生の読解力を高めるための助言があり(これは親御さんには大いに役立つでしょう)、教育のあり方への提言も傾聴に値します。前著『AIvs教科書が読めない子どもたち』との併読をお勧めします。
◎金敬哲『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書、946円)
最初は嫌韓本の一種かと思ったのですが、なんの偏見もなしに韓国社会の実情を赤裸々に描いた貴重なレポート本でした。著者はソウルの名門女子大を出て東京新聞のソウル支局で働き、今はフリージャーナリストです。
幼少時から厳しい競争に放り込まれ、歳をとればとったで苦労の絶えない社会にあって、難関大学めざして塾通いする小中高生たちは週に7日、塾で授業を受けた後、予約しておいた机で深夜まで自習をします。そのため一家だんらんなど望むべくもなく、教育代で家計は火の車です。
名門大学卒以外の恋愛、結婚、就職、マイホーム、さらには夢や人間関係まで断念する若者をN放(ポ)世代と呼びます。「放」はあきらめる意味。3つあきらめるなら3放ですが、N=不定数つまりすべてをあきらめるというのだから悲惨です。
本書によって韓国社会の厳しい実態を知ることは隣国として大事です。高み(?)から同情するというのではもちろんなく、どころか韓国の姿は日本への警鐘かもしれません。
◎米山公啓『長生きの方法 ○と×』(ちくま新書、858円)
60歳を過ぎてからの健康法、医療との付き合い方、老後の人生の生き方を、開業医で著書多数の著者がズバリ直言した本です。
まず薬は減らす。多くの場合、飲まないほうがいい。そして健康診断などしないほうがいいとも。酒は百薬の長というがそんなことはなく酒の適量は意外に少ないのだと、酒好きには厳しいコメントもあります。何歳からでも禁煙が正解で、一方、コーヒーは大いにお勧めだとか。
運動しすぎは体に良くないのでウォーキングにとどめよう。痴呆症対策の脳トレはやっても効果がない。そんな意外な助言が続いた後は、中高年の生き方への助言集。すなわち、同窓会には出るな、田舎暮らしの楽しさは幻想だ、クルーズ船で世界一周の旅はやめよう、好きなものを食べるのが一番、など自由に生きる老後を推奨しています。あれはいけないなどとがちがちの生活よりものびのび老後こそ正解のようです。気軽に読めました。
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浅野純次・石橋湛山記念財団理事の【読書の楽しみ】
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