【熊野孝文・米マーケット情報】ハイブリッド種子多収生産に画期的新技術2020年1月14日
どうしたわけか年初めからコメの種子に関する取材、相談が立て続けに入った。3つのうち2つは実ビジネスに関わった話なので先方の了解が得られ次第このコラムでも紹介したいが、今は生々しいので間を置きたい。残る1つは取材先が自社のホームページで概要をリリースしたので、そのことについて紹介したい。
プレスリリースの概要は「豊田通商株式会社(以下、豊田通商)が出資する水稲種子開発企業「株式会社水稲生産技術研究所」(以下、水稲研)が、ハイブリッドライスの効率的な採種法に関する特許を11月1日に取得しました。2つの系統を交配させて生まれるハイブリッドライスは、従来型の品種に比べて食味や収量の向上など有用な性質を持たせることができます。しかしながら2つの親系統を交配させて採種するため、種子の収量低下や、ハイブリッドライスにならない花粉親系統の種子が混ざりやすい、という課題がありました。水稲研では、これらの課題解決につながる効率的な採種方法を発明し、ハイブリッドライスの種子収量を増やすことに成功しました。またこれにより、採種工程の工数削減も期待できます。
・発明の名称
ハイブリッドライス採種のための栽培方法
・発明のポイント
従来ハイブリッドライスの採種方法では、2つの親系統の苗を交互に植えていました。この手法では、花粉親系統の種子が混ざりにくくなる反面、両系統間の距離が遠い箇所ができ、受粉効率が低下するという課題がありました。
今回の発明は、2つの親系統を混ぜて植えることで両系統間の距離を短くし、受粉効率を上げることで収量を増加させます。これまで混植栽培ができなかった理由は、収穫後に、ハイブリッドライス種子と花粉親種子を分けることができなかったためですが、今回特殊な選別機を利用することで、選別が可能となり、高純度な種子の生産が可能となりました。
また列植栽培では、栽培管理や稲刈りなどの作業を系統別に行う必要があるため、工数がかかりました。これに対し混植栽培では、栽培管理や稲刈りを系統別に行う必要がなく、通常のコメ生産と実質同じ手法で作業できるため、生産農家の負担が大幅に少なくなります。
豊田通商および水稲研は、当特許技術を用いることでハイブリッドライスの採種効率を上げ、自社ブランド米「しきゆたか」の普及をはじめ、日本のコメ農家の生産拡大に貢献していきます」というもの。
簡潔にまとめると混植栽培と言う新しいハイブリッド種子栽培方法で受粉効率をアップさせ、生産された種子を特殊な選別機で選別することによって従来方式に比べ、手間がかからず効率よくハイブリッドライスの種子が生産できるということ。水稲研の社長によると生産量は「従来方式に比べ2倍から3倍の収量が得られる」と言うのだからまさに画期的な技術。
ここで少しハイブリッドライスのことについて触れてみたい。トウモロコシや野菜の種はハイブリッド種子が当たり前だが、日本で実際に作付されているハイブリッドライスは三井化学の「みつひかり」と豊田通商の「とうごう(商品名しきゆたか)」の2種類だけである。両方合わせても日本での作付面積は4000ha程度で、マイナーな存在に留まっている。ところが中国では1973年にハイブリッドライスの生産方法が発明されて以来、急速に種子生産技術が発達、今ではその種子を海外にまで輸出するまでになっている。コメの種子に詳しい向きによると中国のハイブリッドライスのもとは琉球大学の新城教授が開発したものだと言うが、それはともかく、世界の水稲の平均収量は1ha当たり4.61tなのに対して、中国では7.5t。スーパーハイブリッドライスに及んでは16tから17tになるというのだからまさに驚異的。
日本でハイブリッドライスが普及しなかった原因は、日本のコメは国や自治体が育種したコメが優先され、民間が育種したコメが奨励品種になることはなく、長い間検査銘柄にもなれなかったという苦難の歴史がある。さらに種子代金が国や自治体が育種した品種に比べ5倍から6倍も高いことがネックになっていた。なにせハイブリッドライスの種子を作るには交互に作付した異品種を同じ時期に開花させ、人手でロープを引っ張り受粉させるという事を50年来やってきて、そのうえまともに種子になるのは多くて反3俵程度なので安くしろと言う方に無理がある。
しかし、この水稲研が開発した新技術で種子の多収生産が可能になれば話が違って来る。豊田通商は種子の生産に協力してくれる生産者に反15万円を保証すると言っている。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
重要な記事
最新の記事
-
介護崩壊を食い止めよ【小松泰信・地方の眼力】2025年12月17日 -
米の相対取引価格下落 前月より565円下げ2025年12月17日 -
適用拡大情報 殺菌剤「日曹エトフィンフロアブル」、「ピシロックフロアブル」 日本曹達2025年12月17日 -
乗用全自動野菜移植機「PVDR200」を新発売 井関農機2025年12月17日 -
着色不良・日焼け・晩霜害 果樹の温暖化被害予測システムを開発 農研機構2025年12月17日 -
新規有効成分「シベンゾキサスルフィル」日本と韓国で農薬登録申請完了 日本農薬2025年12月17日 -
BASF「バスタポイントアプリ」が「minorasuポイントアプリ」にリニューアル2025年12月17日 -
林業スタートアップが社会的影響を可視化 インパクトレポート公開 森未来2025年12月17日 -
有明海産のり使用「堅ぶつ 焼のり味」期間限定発売 亀田製菓2025年12月17日 -
被災地で復旧支援する団体へ約767万円を寄付 こくみん共済 coop〈全労済〉2025年12月17日 -
全国各地の農家・多彩な品種 玄米サブスク「mybrown」リニューアル オーレック2025年12月17日 -
広島県廿日市市と包括連携協定を締結 タイミー2025年12月17日 -
「第3回旭物産のカット野菜を探せ恒例!冬のお宝探しキャンペーン」開催中 旭物産2025年12月17日 -
年末年始の産地を応援「配達休みに産まれた産直たまご」注文受付開始 パルシステム2025年12月17日 -
地産全消「野菜生活100宮崎月夜実グレープフルーツ&日向夏ミックス」新発売 カゴメ2025年12月17日 -
地域の有機資源循環を加速「汚泥肥料化パッケージ」提供開始 NTTビジネスソリューションズ2025年12月17日 -
旬のジビエを味わう「北海道エゾシカフェア」開催2025年12月17日 -
まるまるひがしにほん「魅力発見!地域ブランドフェスタ」開催 さいたま市2025年12月17日 -
ひきこもり当事者・経験者のリアル ショートドラマ公開 パルシステム連合会2025年12月17日 -
ジニア「プロフュージョン」に2品種追加 サカタのタネ2025年12月17日


































