【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(164)社長の任期・農家の任期2020年1月17日
現在の上場企業トップの中で半世紀以上トップを継続している人は3人との記事を見た。第1位はライフコーポレーションの清水信次会長で在任期間62年、第2位はサンリオの辻信太郎社長で58年、第3位はアークスの横山清社長で54年である。
この3名はいずれも非常に有名どころか業界では既にレジェンドである。日本の企業に限らず、創業者が元気な限りトップを張り続けるというのは洋の東西を問わない。中でも62年間、まさに驚異である。今年還暦を迎える筆者が生まれる前からトップであるということを思うとその凄さには只々驚くばかりだ。
さて、先日、大学の授業でたまたま国内メーカー(ヤクルト本社)を取り扱った。一連の分析と検討を終えた後、トップの話をした。過去半世紀のヤクルト本社のトップはざっと言って、20年間の松園時代、10年間の桑原時代、そしてさらに20年間の堀時代を経て、現在は根岸社長の時代となっている。
振り返りに使った題材は、1950年の国鉄スワローズから(1年間だけの産経スワローズを経て)1966年に産経アトムズになり、その後1970年にヤクルトアトムズ、そして1973年にヤクルトスワローズになったプロ野球球団の流れである。筆者は1960年生まれのため、このあたりの流れはリアルタイムで覚えている。
子供の頃、当時ヤクルトの「松園オーナー」という名前を様々なニュースで聞いたが、監督よりも「偉い人」という不思議な印象しか無かった。調べてみるとヤクルトを大企業に育て上げた松園尚巳氏が産経新聞社からアトムズを買収したのが1969年である。子供心に球団買収の経緯などより名前が変わることに驚いたものだ。
もうひとつの題材は、世界的な乳製品メーカーであるダノンとヤクルトとの関係だ。バブル期にデリバティブで被害を受けたヤクルトを再生させる一環として、後に有名になるダノンとの関係が強化されたが、それは時間とともにかなり複雑なものとなる。いろいろな経過を経て現在は落ち着きを取り戻しているようだ。授業の課題として話した内容は、「トップの在任期間はどのくらいが適当か?」というものだ。
正確な統計ではないが、私の授業を受けていた大学生の感覚は5年から15年くらいが最も多く手を挙げていた。そこで、冒頭の話とともに学生達がよく知る企業の名前を出して各社トップの在任期間を紹介した訳だ。流石に50年以上は少ないが、30年以上となるとかなりの数になる。先の記事によれば、50名中40年以上が15名、30年以上40年未満が35名である。
ここまでであれば、恐らく通常の経営学の話になる。トップの長い在任期間の是非、利益との関係、あるいは次世代への継承をどうするかという議論をすれば「定番」だが、それでは面白くないので、ここで「農家」という「捻り」を加えた。
日本に限らず、農家は一人ひとりが経営者であり任期などは無い。50年以上トップを張り続けている上場企業の経営者は現在冒頭で述べた3名だが、50年以上、一家の中心として農業を続けている農家は何名いるのか?(同じことは中小企業経営者にも言える。)
そこで、正確ではないが簡単に推測してみたい。例えば、平成31年の「農業構造動態調査」において販売農家における「年齢別基幹的農業従事者数」(自営農業に主として従事した世帯員のうち仕事が主の世帯員数)は男女計で140万人である。
50年前といえば1970年だ。日本の高校進学率が90%を超えたのは1974年であるから現在50年以上の農業経験を持つ人のほぼ全ては高卒以上の学歴であろう。そうすると、単純な推定は18+50=68歳以上の「基幹的農業従事者」ということになる。多少ずれるが、農水省の統計では70歳以上の「基幹的農業従事者」は59万人(男性36万人、女性23万人)、このうち主業農家となると13万人(男性7万人、女性6万人)となる。
実はこの方達こそ、過去半世紀、市場開放・国際競争をはじめとした様々な環境変化を乗り越えて生き残ってきた現代農業のレジェンドである。農業界はこの方達をどう思っているのだろうか。もしかしたらとんでもない思い違いをしているのかもしれない。
上場企業と個人農家を比較するのが適当かどうかはわからない。だが、人生においてひとつの職業を半世紀以上継続・維持してきたことの価値とその蓄積されたスキルの貴重さをどう継承していくか、一度じっくりと考えてみる必要がある。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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