【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】濡れ衣を着せられた蛾の幼虫物語の顛末2020年2月6日
昨年末、ついに、全農・全酪連・日本飼料工業会が「害虫被害に備える」との名目で米国からの輸入トウモロコシの在庫保管補助事業を申請して数十万トン買うアリバイづくりに強制的に協力させられました。実にひどい話です。さて、この濡れ衣を着せられた蛾の幼虫のストーリー、おさらいしておきましょう。
2019年8月25日に日米首脳会談で、トランプ大統領がうれしそうに、「安倍さん、中国が買うと言って買わなくなって余ったトウモロコシを日本が買うと約束したあの話、君からしてくれ」と、みんなに聞こえるように総理に促しました。総理は、「害虫駆除のために買います」と言いました。
害虫駆除(?)とは何かというと、日本のトウモロコシを蛾の幼虫が食べているので、不足するから、これを買わなくてはいけないのだと説明しました。農水省の担当者が記者の質問を受け、「害虫は出ていますが、被害は出ていません」と答えました。これはえらく怒られたでしょうね。言い換えました。「害虫の被害については確認していません」。一緒じゃないか!!
しかも、この害虫が出たトウモロコシは青刈りトウモロコシといって、牧草などと一緒に混ぜて繊維質を与える粗飼料というものです。粗飼料が足りなくなっても、アメリカから買う栄養価の高い粒の濃厚飼料のトウモロコシを牛に代わりに食べさせたら牛は病気になってしまいます。代わりにならないものを無理やり理由付けに使ってしてしまったわけです。
だから、これは最初にそういう理由があったのではなく、「尻拭い」で買う-言葉は悪いですが、親分が粗相したので、お尻を拭くのは日本です-ことになってしまったけど、そんなことは恥ずかしくて国民に言えない、何か理由を探せということで、濡れ衣を着せられたのが、蛾の幼虫だったのです。
しかも、総理は10月8日の国会で、「あのトウモロコシをどうするのですか」という質問に対し、「私は買うとは言っていない」と言って、みんなびっくりしましたが、確かに総理のおっしゃるとおりです。要は、自分が買うわけではないということです。民間のどこかが買うのだということです。でも、どこの商社もそんなものを買いません。必要もないのに、600億円もかけて300万トン近く買って持ってきて、置いておく場所もないし処分もできない。
標的になるのは組織攻撃も受けているJA系統です。全農さんは穀物商社でもあるし、買わざるを得なくなるかもしれないということで、いろいろシミュレーションしました。でも、持ってきても日本に置いておくところもない。どうするか。では、代金決済だけして、アメリカからトウモロコシをアフリカに送ろうか。でも大損になる。それもいやだから、バイオエタノールをつくろうか。だったら面倒くさいから、もうアメリカから直接エタノールを買ってこようかという案まで出てきました。でも、本当にエタノールを買ってくることになったら、いよいよ、蛾の幼虫は何だったのですか? ということですよね。ほとんどわけの分からない話になりました。
当初は、一部の報道で少しミスリーディングな説明が私の話として伝えられたこともあってか、蛾の幼虫主犯説を支持する方々から私もかなり叩かれました。しかし、今や、蛾の幼虫が原因でなかったことは、寒くなって蛾もいなくなり、やはり被害もなかったことから、誰の目にも明らかになりました。
ところが、ついに、昨年末、全農・全酪連・日本飼料工業会が「害虫被害に備える」との名目で在庫保管補助事業を申請して数十万トン買うアリバイづくりに強制的に協力させられたのです。実にひどい話ですが、これで米国が納得するかどうかは別問題です。
トランプさん自身は日本に買うと言わせた昨年8月25日のパフォーマンスで満足して、あとのことには関心がないかもしれませんが、ヌカ喜びさせられたと気付いた米国の穀物農家が話が違うと言い出したら、どうなるか。トランプさんもまた動くでしょう。恐ろしいのは、味をしめたトランプさんは、引き続き自動車への25%の追加関税をちらつかせることで、日本に際限なく様々な「尻拭い」を要求してくるということです。
威嚇されるたびに、トウモロコシも毎年300万トン近く買わされたら、あっという間に1000万トンになってしまいます。実は、実際、昨年8月25日の会見時、第1報では、日本政府高官の発言として日本が約束した輸入量は1000万トンとの情報が記者の間で駆け巡っていたのです。そういう可能性は最初から出ていたということです。これでは「底なし沼」。まさに「属国が宗主国の言うことをすべて聞くような交渉」(山下一仁・キヤノングローバル研究所研究主幹)がエンドレスに続くのです。さすがに歯止めをかけないと一部の方々の地位と利益は守れても、日本国民が持たなくなってきています。
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