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コラム:グローバルとローカル:世界は今

【三石誠司 宮城大学教授】

2020.02.10 
【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(167)ソマリアの飛蝗と仮面ライダー一覧へ

 アフリカ東部をバッタの大群が襲っている。日本では最近までは季節外れの「桜」、今は「新型コロナ」一色だが、「アフリカの角」と呼ばれるソマリアを中心にエチオピアやケニアでもバッタの被害が物凄い。

 現実の被害は、東アフリカだけでなく、南西アジアやアラビア半島南端の一部にも及ぶようでホシは「砂漠のバッタ(desert locust)」と呼ばれている。国連食糧農業機関(FAO)のウェブサイトに地図や動画が出ているので、ご関心ある方は覗いてみると良いだろう。

 さて、現代日本語では「虫偏に皇」と書く「蝗」(こう・いなご)という文字を使うことは滅多にない。中国でははるか大昔、殷代の甲骨文にも記載があるらしいが、現物は見たことがないためよくわからない。ただし、多くの文献では、蝗害(蝗災)は、水害や干ばつと並び称される3大災害であり、周期的に発生しただけでなく、特に干ばつの後に蝗害が発生し、人々は苦しんできたようである。
 先に述べたとおり、「蝗」は日本語の訓読みでは「いなご」だが、中国の蝗害のほとんどは、いわゆる「飛蝗」、つまりトノサマバッタの類と考えられている。携帯やキーボードで「いなご」と打ち変換すれば「蝗」になるが、「バッタ」と打って変換すれば「飛蝗」となる。彼らは生物学的には、コオロギやキリギリスと同じ「直翅目(バッタ目)」に属する。「直翅目」の特徴は後脚がかなり発達し、いわゆる跳躍肢となっていることであり、その下位区分でバッタやイナゴ、オケラなどに分かれるようだ。

 エチオピア、ソマリア、ケニアで蝗害を引き起こしているものは動画を見る限りかなり大きい。体長10cm前後はあると思う。FAOによれば、1平方kmの範囲に8000万匹の成虫がまとまり、1日で3万5000人が1日に消費するだけの食料を喰い尽くすらしく、東アフリカ諸国の食料安全保障と農村生活に極めて大きな脅威となっている。
 その増加スピードは凄まじい。これもFAOの解説だが、「寿命は3か月、卵から孵化まで2週間、6週間で成虫になり、その後1か月で産卵、総数は3か月で20倍、半年で400倍、9か月で8000倍になる」という。こんなものが食べ物を求めて大量に移動している。まさに、古代中国でこの災いをどう防ぐかに「皇帝」の真価が問われ、文字が虫偏に「皇」になったという説があるのも頷ける。
 4月の作物収穫期を控え、過去25年で最大の被害を受けていると伝えられるソマリア政府は、2月2日に国家非常事態宣言を出している。東京と同じ約1400万人の人口を擁する同国は、外務省のデータによれば、家畜・バナナ・皮革・水産物を輸出し、工業製品、石油製品、食料を輸入している。日本で良く用いられるカロリーベースの食料自給率は50%をわずかに超えている。同じ食料安全保障の問題でも日本とは様相が全く異なる事象がアフリカで発生していることに留意しておきたい。

 蛇足だが、筆者達が小学生の頃に登場し、様々なバージョンを経て今でも人気の仮面ライダーは、人間にバッタの遺伝子を埋め込んだ改造人間が主人公(仮面ライダー1号)である。作者の石森章太郎氏は当初、全く別のヒーローデザインを考えたようだがそれを拒否され、最終的にバッタのイメージのものになったようだ。
 高速のバイクで走り、ベルトで受けた風をパワーの源とし、バッタの跳躍力(ライダージャンプ、ライダーキック)を得た等身大のヒーローに夢中になった半世紀前を思い出す。あの時代、高度成長の陰で様々な社会問題が出始めていた。太陽光や風力エネルギーの活用を当時の石森氏がどこまで考えていたのかは知る由もないが、時代の影響を受けたことは確かであろう。
 もし、古代中国、殷代の記録が正しいとすれば、東アフリカの「飛蝗」被害のニュースは最長で4000年ほど前から我々は同じ被害を受け続けていることを示している。本当に何とかならないものか。


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