【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】(169)「以貌取人」:外的形態と中身2020年2月21日
やっかいな問題が蔓延している。新型コロナはもちろん国際的大問題だが、その背景を考えると「単純」ではない。もちろん、ここで言う「単純」の意味は、防疫手法の是非とか出所不明な様々な情報の真偽のことではない。
先日、ある会合の発表で不思議に思ったことがある。発表者はある食材を対象として様々な検討をした。その内容や手法、まとめ方は素晴らしかったが、どうも心に引っかかるものがあった。
科学のある分野においては遺伝子解析に代表されるように、非常に細かく対象の内容が分類されており、そのごくわずかの違いや、そこから生じる機能の差を解明しようとする試みが日夜続けられている。一見、同じように見えても中身が異なることを研究者がよく理解しているからだ。
ところが、日常的にありふれたモノに話題が転じた途端、一般的な集合名詞の世界で物事が語られるだけでなく、場合によってはそのまま議論が発展したりする。
例えば、「クルマ」と一言で表してもその種類は非常に多い。道路運送車両法上の自動車は、普通、小型、軽、大型特殊、小型特殊に分かれ、農業用トラクターは小型特殊自動車の中に含まれる。さらに、普通自動車の範疇の中にもバス、トラック、乗用車がある。これら3つは外的形態が異なるため、誰でもわかる。変な例えだが、乗用車とトラックを同じ自動車として研究対象にすることはなかなか無いだろう。これは法律上の分類や機能のみでなく外的形態が明らかに異なるからである。
ところが、世の中の日常会話では全て「クルマ」で済ますことが意外に多い。筆者にとって長年慣れ親しんだトウモロコシはあくまでもトウモロコシだが、植物学上の分類以上にその中身により市場価値が異なる。よく知られている遺伝子組換えトウモロコシで言えば、害虫耐性や除草剤耐性、さらにこれら2つを併せ持つスタックと呼ばれるもの、これらに加え、何年も前から構成成分に特徴があるものが数多く作られている。米国中西部のトウモロコシ畑には皆同じに見えても品種以上に用途が異なるトウモロコシが植えられている。植物ではあるが、その種類や用途を見るともはや工業製品のようだ。
もちろん、これらは国際的にも国内的にも安全性評価の仕組みが構築されている。その是非についての議論は様々だがここではそれは脇に置いておく。
問題は、相変わらず多くの人にとってトウモロコシはあくまでもトウモロコシであり、集合名詞の「クルマ」と同じ感覚で捉えられていることだ。実はこれと同じことは外来種増加の問題についても言える。国内外で外的形態が同じに見える病害虫などでも、実は世界各地で各々の環境に応じて独自に進化しており、DNAレベルでは全く異なる系統群に分かれ、薬剤耐性などが異なる場合がある。それでも一般的には同じ「ムシ」や同じ「サカナ」として扱われることが多いのは、中身について見えていないだけでなく、対象を理解しようとする我々の思考や分類の枠組・方法に影響を受けるからであろう。
このようなことを考えていたら、モノの例ではないが「以貌取人」、つまり「人は外見で人を採用(判断)する」という言葉を思い出した。食料自給率に穀物自給率を含めるか否か、新型コロナかインフルエンザか、現在起こっていることを見ても、残念ながら、我々はどうしても目で見たモノに大きく影響されることは間違いないようだ。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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