【鈴木宣弘・食料・農業問題 本質と裏側】日米安保の幻想と共生のアジア2020年3月5日
パネルディスカッション「アジアの共生~自立日本の総合安全保障を考える」(於: 福岡、自主・平和・民主のための広範な国民連合第24回全国総会、2019年11月)での筆者の発言の一部を紹介する。
◆日米安保はアメリカのため?
私は防衛の問題は専門外ですけども、日本の農業政策を安全保障も含めて考えると、「日米安保の幻想」というものが浮かび上がります。
われわれ日本は何か独自にやろうとすると、「安保でアメリカに守ってもらっているから、アメリカに逆らえない」ということで思考停止になってきました。でも、本当にそうでしょうか。アメリカが沖縄をはじめ日本に基地を置いているのは、日本を守るためでなくて、有事には日本を戦場にして、そこで押しとどめて、アメリカ本土を守るために置いているのです。そして、最終的に日本はその犠牲になるわけです。
だから、「アメリカに守ってもらっている」という幻想を根拠にして日本がアメリカの言うことを聞かなければいけないという論理は根本的に間違っているんです。また、アメリカは広島や長崎への原爆投下を未だに「正当だった」と言っています。「友愛」「共和」は必要ですが、その前提がアメリカとの間ではできていないんですよ。
2019年、日本は相次ぐ台風などの自然災害で大変な被害を受けました。あのときに国はすぐ動きましたか。そんななか、オスプレイ、F35戦闘機、イージス・アショアに何兆円使っているんですか。災害があったときに、国民の生命や安全を守る、食料や電気などのエネルギーを国民にしっかり確保する、そのために普段から最悪の事態が起きないようにしっかりと生活インフラを強固にすることこそが安全保障じゃないですか。食料がなくて、困ったからといって、オスプレイをかじることはできないのです。
◆日本は中国、韓国などアジアのすべての国で互恵的な共通農業政策をつくる
思考停止的・盲目的な対米従属を否定するだけでは先が見えません。それに代わるビジョン、世界の社会経済システムについての日本の将来構想が具体的に示されなくてはなりません。まず、われわれがアメリカと対等な関係をつくるにはどうしたらいいかといえば、日本は中国や韓国などのアジアのすべての国々といっしょになって、共通性に根差した基盤をつくる、アジア共同体的なものをしっかりとつくることで、世界におけるわれわれの立場をしっかりと示していくことです。
こうしたことは議論にはなってきましたが、だいたいは「入り口論」で終わっているわけです。もう具体策を論じなくてはいけません。アジアの国々の間でTPP型の収奪的協定ではなく、お互いに助け合って共に発展できるような互恵的な経済連携協定が必要です。
農業の面でいえば、アジアの国々には小規模で分散した水田農業が中心であるという共通性があります。そういう共通性の下で、多様な農業がちゃんと生き残って、発展できるようなルールというのを私たちが提案しなくてはいけない。そして、そのための具体的なプランが必要です。今はもう「総論賛成」ではなくて、具体的な対案を基にみんなが議論するところまで進めなければいけないのです。
私は箱崎にある九州大学のアジア総合政策センターの教授もやっていました。そこで、私は「東アジア共通農業政策」の青写真を具体的に提案しました(注)。EUがまとまれた成功のカギはEU共通農業政策だったのです。EUの経験からも学び、アジアにおける共通農業政策の青写真を基に議論できる場をつくっていかなければと思っています。
◆安全保障を理由に食料と農林水産業を守ると言える国に
もう一つ、安全保障の関係で付け加えると、アメリカが日本などの自動車に25%の関税をかけると脅す口実として「安全保障」を理由にこじつけています。日本の現政権は「アメリカは自動車の追加関税を今後持ち出さないと約束した」と言っていますが、今回の日米協定の条文に「協定のいかなる規定も安全保障上の措置を採ることを妨げない」ということをわざわざアメリカは書いたんです。つまり、味を占めたアメリカは、これからも日本を脅すときは、この条文も根拠に、何度でも25%関税をちらつかせてくるということですよ。
本来であれば、日本は逆に「安全保障上の理由で食料を守る」「食料の国境措置はこれ以上下げない」と対等にアメリカに主張すればいいじゃないですか。しかし、現政権がこんなことを言えるわけはないので、結局、こうした状況をどう打開するかが、われわれに問われています。
だからこそ、われわれは、アジアに真の意味での「友愛」「共和」の連携ネットワークをつくり、それをベースにアメリカに対等な主張をしていくべきではないでしょうか。
(注) 鈴木宣弘「東アジア共通農業政策構築の可能性-自給率・関税率・財政負担・環境負荷-」『農林業問題研究』第161号、2006年3月、pp.37-44。
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