Web上でコメの席上取引を行うコメ業者組織【熊野孝文・米マーケット情報】2020年5月12日
いよいよと言うべきか、やはりと言うべきか、Web上でコメの取引会を開催するコメ業者の組織が出て来た。この組織は関東中心にコメの集荷業者や卸、大手小売、仲介業者などで組織される任意の団体で、毎月1回都内で情報交換会と席上取引会を開催していた。ところがコロナ禍により2ヵ月連続で取引会が中止された。このままでは情報交換会はもちろん、コメの売り買いの場も無くなるという事で、Web上で情報交換会と席上取引会を開催したらどうかという意見が会員社の中から出て来て実行することになった。実施日は5月15日の金曜日で、その前に模擬取引会を2回開催した。
Web上のコメ席上取引会がどういうものか簡単に説明すると、まず、取引会の主催者が参加会員にIDを提供する。IDを受け取った会員社はWeb会議を開催できるアプリにアクセスしてIDを入力するとパソコンやスマホでその会議に参加できる。この組織が使用したアプリは参加人員が最大100名まで参加できるようになっており、通常この取引会には関西や東北からも参加する会員社がいるがそれでも30名程度で、参加制限をかける必要はない。
IDを入力して画面を開くと、画面上に参加した会員者の顔が出て来る。その中の一人が発言するとその画面がアップされる。Web会議を行っている人ならここまでは当たり前のことだが、画面上でコメの席上取引をどうするかと言うと、取引きが開始されると画面上にエクセルで作成された売り買いの一覧表が出て来る。表には左から売り人、年産、産地、銘柄、等級、荷姿(フレコン・紙)、数量、価格、受渡期日などの欄があり、右端に買い人の欄がある。エクセルには事前に会員社の社名や産地銘柄が入力されており、売り人が画面場で声を上げるとエクセル上にそれが表示される。売り人が提示した条件に対して買い人が声を上げるが、多くは売り人の売り希望価格より安い価格を唱えるので、その場合、場立ちが売り人に価格の下げを買い人に上げを促してセリを行い成約に結び付ける。取引会場に行かなくても全国どこからでも参加できるWeb場のリアルな取引会はまさに画期的というべき試みであると言える。
これまでにコメ業界でITを活用したコメの取引きが試みられなかったわけではない。会員社にFAXで売り買いメニューを送って取引会を行っている日本コメ市場も組織が立ちあがる前の早い段階でスマートホンを活用した取引きを行うべくシステムを開発したことがあった。しかし、コメの取引条件は複雑で、スマートホンで処理出来る情報量では足らず、結局、電話でやり取りするしかないということで今日に至っている。もっと大規模なコメ取引のシステムでは、大手商社が数億円を注ぎ込んで現物や先渡し条件の反対売買が出来るシステムを開発したのだが日の目を見ることがないまま消えてしまった。これも取引システム自体は大変優れたものであったが、わかりやすく言うと当時行われていたコメ取引の実態になじめなかったというのが日の目を見なかった最大の原因である。
しかし、急速に発展するIT技術により参加者がその場にいるような感覚でコメの取引きが可能になったのである。Web上での取引きでは、その画面場に参加者がいるのだから混載条件や売り人が指定した受渡期日もA社が受け入れなくてもB社なら応諾出来れば成約に結び付く。しかもそのやり取りは全て録画できるのだから成約履行の担保にもなり得る。なによりも全国どこにいてもIDさえ取得出来れば取引きに参加できることで、空間的な広がりを獲得できることはコメの取引きにおいてまさに画期的と言える。
IT技術の発展で最も期待されるコメの取引きと言えば「画像取引」である。等級や銘柄の表示がない特定米穀は、サンプルをみて取引会場に来た会員社が自らの目でその価値を判断するしかなかったが、飛躍的に画像解析技術が進歩した結果、サンプルを画像解析してデータ化することによって目視で判別しなくても価値判断が出来るようになった。この画像とデータをWeb上にアップすれば全国どこにいても取引きが可能になる。それだけではなく、農産物検査法で定めた等級基準でなくても画像データで1等相当であるという価値判断が可能になるため、そのデータを担保に取引きできる。
農水省は2年産政府備蓄米買入に際して新型穀粒判別器で画像解析したものを買い入れることにしたが、その際、人間の目視検査より60キロ当たり70円安く買い入れることにした。つまりその額分コストが引き下げれるという事を示したのである。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日