キャンセル料と白米安売りの損得勘定【熊野孝文・米マーケット情報】2020年6月30日
「こんなことがまかり通ることがあって良いですかね。とにかくひどい話ですよ」とコメ販売業者が憤っている。どんなひどい話かと言うと、この業者、地元の量販店の求めに応じて中米を原料にした低価格の精米を納入していた。ところが市中の玄米相場が暴落したことからこれまでこの量販店とは取引きのなかった米卸が一般銘柄米を原料にした精米を中米原料にした精米と同値で納入すると売り込みに来た。量販店側はその条件を入れて9月まで納入予定だった中米原料の精米をキャンセルすると言って来たというのだ。
量販店とコメ納入業者の関係は、わかりやすく言うと量販店側から納入業者に対して供給責任を問われるが、その逆はない。精米年月日を過ぎた精米はどうなるのかと言うと納入業者が引き取って日切れ品として再販する。再販先は主に業務用米だが、そこがコロナ禍で需要が激減したのだから行き場がなくなったというのが今のコメ業界の状況。まさにこれまで誰も経験したことがない事態が進行しているのである。
その状況は各機関がまとめたデータにも出ている。農水省のマンスリーリポート6月号に中食・外食向けの販売数量の前年対比が出ているが、3月は89%、4月は75%になっている。6月号には週ごとの分類別販売POSデータが詳しく出ている。精米は4月第4週から失速して前年同期を割り込んでいるが、好調なのが小麦粉やプレミックス粉、パスタ、インスタント袋めんで、大幅な伸びを示している。コメ加工品で意外な伸びを示しているのが包装餅で正月需要を過ぎた2月第2週から毎週前年を上回り、4月第3週は187%という高い伸びを示している。6月23日に開催された炊飯協会の総会では会長が業界の窮状を示し「パスタの価格はごはんの3分の1価格である。このままでは日本人の主食はコメから小麦になる」と早急に高米価政策を止めるよう訴えた。
各機関がまとめたデータで最も衝撃的なものは全農がまとめた元年産主食用うるち米の販売状況で、そこには5月は前年同月比79%の11万2000tと記されている。数量ベースで2万9000tも落ち込んでしまったのである。長年全農の主食用うるち米の販売実績を見ているが、単月データとして20%以上も落ち込んだというデータを見た記憶がない。さらには6月末の民間在庫に関して国の見通しより14万tも多い202万tになると推計、「先行きの需給見通しは近年にない厳しさが想定される」と記している。
米卸の目下最大の経営課題は手持ちの元年産米在庫を新米が出回るまでにいかに軽減するかである。その大問題解決のために冒頭のような動きも出ている。なにせあと一ヶ月もすると南九州や関東の早期米が出回り始めるので考えている暇はない。
そんな米卸のところの全農県本部から「令和2年産米収穫前契約のご提案」という文書が送られて来た。2年産の申し込み期限を見ると7月8日(水)と記されている。これも考える暇はないのだが、すでに過剰在庫になった元年産米は仕方がないにしてもこれから仕入れる2年産米はよくよく考えた方が良い。収穫前契約の文書には何と記されているのかと言うと、この産地の基幹品種コシヒカリの基準価格は1万4400円(60kg玄米、在姿、1等、裸、税別)で、上下10%の変動価格方式になっており、高値は1万5840円、安値は1万2960円。メリット措置として「実需者を明確にした特定契約を締結する場合」は早期引取りメリットとして当年12月末は150円値引き、翌年3月末は100円値引き。事前契約メリットは確認書締結数量に対して100円値引き。特定3者契約メリットとして100円値引きなどと記され、最後に「違約金」は60kg当たり「3000円」と明記されている。全農本体は2年産から卸との契約は個別に対応、それぞれ条件が違うようにするため基準価格等は示さないようにするため、この県本部の文書は例外的だが、元年産までの取引条件をまっさらにして提示して来る産地はいないと思われるので、内容は多少違えども各産地とも卸に対してこうした文書を送って2年産米の事前契約を推進するはずである。
買い手の卸はこうした文書を見て当然考える。最安値の下限価格で仕入れられるとしてもそれが今の実勢相場と照らして割安なのか否か? 契約したらキャンセルすると1俵3000円の違約金が発生する。
ちなみに最近行われた業者間の席上取引会では元年産千葉コシヒカリ1等は置場1万1800円売り1万1600円買いが実勢である。
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(株)米穀新聞社記者・熊野孝文氏のコラム【米マーケット情報】
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