【浅野純次・読書の楽しみ】第52回2020年7月16日
◎石井妙子 『女帝 小池百合子』(文藝春秋、1650円)
都知事選は現職の圧勝でした。連日、緑の服と日替わりマスクでテレビに登場し「やってる感」を見せたので他候補は付け入るスキがありませんでした。
キワモノ本と思う人もいるでしょうが、しっかりと調査して書かれた本格的ドキュメンタリー本です。
最大の焦点はカイロ大学の卒業問題で、卒業していなければ公選法違反です。「カイロ大学は卒業を保証しているそうじゃないか」という友人もいますが、本書からはちょっと無理筋のようです。
カイロ時代の生活や勉強の実態が、無二の友人の証言などによって明らかにされていきます。アラビア語の実力に関する本人の言い分と実際の落差の大きさは大変なものです。
キャスターから政治家になっていく過程、つまり細川、小沢、小泉という領袖に取り入って中枢ポストに座り政界の階段を駆け上がっていくところはご存じのとおりです。
ウソの連発も見逃せません。アスベスト被害者の家族や築地の女将たちにウソを糾弾されても平然としている様は、政治家として何をしたいかが見えない姿と重なります。
任期途中での国政への転進がささやかれる人物を本書によってしっかり見極めることは、日本の将来のためにも必要なことでしょう。とても面白い本です。
◎小島英俊 『昭和の漱石先生』(文芸社文庫、792円)
夏目漱石は1916(大正5)年に49歳で亡くなりました。でも本当は薬効甲斐あって、敗戦の日まで生きていたというのです。
漱石は英国で整形手術をしたので、世間は漱石とはわからなかった、でも「漱石だ」と言えば政官財の要人たちはすぐ話に乗ってくれた、ということで漱石は軍国主義の台頭を防ぐために八面六臂の活躍をする、というのがあらすじです。
政治家では町田忠治や斎藤隆夫、軍人では宇垣一成や石原莞爾、経済関係では池田成彬や石橋湛山などと気脈を通じ合い、組閣や経済政策、外交、満州政策などにかかわり大活躍していきます。
結局は東條内閣のおかげで日本は行き詰まるのですが、確かに漱石のような活躍があれば沖縄、広島、長崎の悲劇は防ぐことができたのでしょう。空想の翼を羽ばたかせた異色小説ですが、昭和期の国際関係、政治経済軍事状況をしっかり踏まえて書かれているので、歴史小説としても大いに楽しめるはず。昭和史のイフ、頭の体操にもなりそうです。
◎山口謡司 『文豪の悪態』 (朝日新聞出版、1650円)
倦怠と孤独の中原中也が太宰治を評して言ったそうです。「青鯖が空に浮かんだような顔をしやがって」。これを聞いた太宰は言い返します。「ナメクジみたいにてらてらした奴で、とてもつきあえたしろものじゃない」。
文士同士はつるんでバーにたむろしたりするけれど、仲が悪いことはしょっちゅうだったようで。永井荷風は菊池寛が嫌いで「性質野卑」と評し、互いに料理屋などで会っても顔を背けたとか。
正岡子規は中江兆民の『一年有半』を「平凡浅薄」と評したそうで、そこまで言わなくてもと思えますが、みな率直な時代だったのでしょう。
ほかにも夫人や弟子をバカ呼ばわりした漱石、借金取りに取り合おうともしなかった直木三十五、童謡好きなのに弟子には冷たかった酒乱の鈴木三重吉など、いろんな話が登場します。しかし、こんな人たちから多彩な文学作品が生まれたのですから、後の我々はありがたく思うべきなのでしょう。
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