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(189)「夾竹桃」に思う【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年7月17日

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【三石誠司 宮城大学教授】

少し前、夕方の散歩で「夾竹桃」の花を見かけました。記憶というものは不思議なもので、花そのものよりも「夾竹桃」という漢字が遥か昔に読んだ作品を思い出させてくれました。この漢字が登場する作品を書いた作家といえばすぐに2人が浮かびます。太宰治の「黄金風景」、中島敦の「夾竹桃の家の女」、いずれも魅力的な短編です。

太宰には「黄金風景」という短編がある。これは1939年に初めて発表されたようで、当時の『國民新聞』が主催した「短編小説コンクール」に応募して当選した作品である。原稿用紙8枚に妻が口述筆記で書いたものとして知られている。下手な解説などより既に青空文庫で開示されているので、ご一読頂きたい。( 青空文庫:黄金風景 太宰治

これだけの量の中に、人生の浮沈と幸不幸を何とうまく詰め込んだものか。

ちなみに「黄金風景」は太宰30歳の作品であり、作中で書かれている船橋に太宰が1年3か月ほど住んだのは1935(昭和10)年、26歳のときである。4年も前の出来事をあのように無駄の無い文章で再現出来るのは才能以外の何ものでもない。

太宰治旧宅として名所になっている船橋のその場所は、太宰が後年「最も愛着深かった」と記した場所でもある。詳細は省くが、「黄金風景」の頃の太宰は、人生の「どん底」時代であったようだ。ごく普通の生活をしている家族の姿が自分とは別世界のように思えたのであろう。

* * *

中島敦「山月記」の冒頭は今でも明確に覚えている。ある時期、筆者は中島にハマり、「李陵」「名人伝」「弟子」などの作品を続けて読んだ。「夾竹桃の家の女」は1942年には完成していたというから、1909年生まれの中島としては33歳の作品である。

記録を見ると、1919年のベルサイユ条約で日本の委任統治領となった南洋諸島(現在のミクロネシア連邦に相当する広大な地域)には、1922-45年まで南洋庁という施政機関があった。大学卒業後横浜で教員となったが喘息により休職していた中島に、南洋庁で現地の国語教科書編集書記としての話があり、転地療養を兼ねて転職の上、1941年夏にパラオに移ったという。

中島は到着早々、アメーバ赤痢やデング熱に見舞われたようで、「夾竹桃の家の女」はその時の経験を踏まえていることは作品からもよくわかる。

筆者が中島に魅かれたのは、その格調高い漢文調の文章もだが、現代に生きる我々にはほとんど死語とも言えるような語彙、とくに漢字で表す植物名や表現の豊富さに圧倒されたからである。これも全文が青空文庫で簡単に読める。( 青空文庫:夾竹桃の家の女 中島敦
 
「夾竹桃の家の女」は、あの短い文章の中に、「ウカル樹」「大榕樹」「芋葉」「羊歯」「檳榔」「夾竹桃」「素馨」「アミアカ」「マンゴー」と、現代人には馴染みのない単語が次々に登場する。冒頭から「ウカル樹」って何? となるが、気にせず読めるところが素晴らしい。「大榕樹」は園芸作物として有名なカジュマルの巨木のようだ。筆者は「大榕樹」という名前の方が、遥かに趣があり好きだ。何でもカタカナにすれば良いという訳ではない。香港や台湾では漢字名を知っていればかなりの筆談ができる。

「芋葉」は芋の葉、「羊歯」はシダ、「檳榔」はビンロウと読めればヤシか...と想像がつくが、これも昭和世代までか。「素馨」もソケイと読めればジャスミンかとなる。アミアカは未だによくわからない。マンゴーは逆に「芒果」で覚えている...。

以上のように、わずか80年程前に書かれた文章を読むのに一苦労である。高校時代にはこれが難解なパズルのように思えた。全ての漢字を通り越して、暑そうな雰囲気と水浴をする女性のイメージ、そして疲れて汗をぬぐう度の強い眼鏡をかけた日本兵のような作者の写真の印象しか残らなかったことを覚えている。

最後に、夾竹桃には毒性がある。西洋の推理小説には時々「夾竹桃」がトリックとして使われているのも興味深い。

* * *

町中に普通にある美しいけれども毒のある花や、気をつけなければいけない植物など、地域の古老や祖父母などから教えられてきた知識が段々と消滅している気がします。コクゾウムシを知らない学生も増えてきている昨今、こうした知識の継承は教育の重要な使命なのだと思うことしきりです。


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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】

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