コメの危機-生産調整から販売調整へ【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】2020年9月17日
コメ需給の危機が始まっている。需要減がコロナ禍で増幅され、生産調整機能が緩められて作付けの抑制が効かなくなってきている影響が一気に顕在化し、米価を直撃しつつある。
9月10日の自民党農政関係会議において、「全農によるコメ20万トン隔離」の考えが示された。すでに概算金は下落し(西日本で300円-500円程度、東北・新潟で700円-900円、関東B銘柄で1000円以上)、早場米の取引価格も昨年に比べて2000円近く下落している。卸業者も2019年産古米がまだまだ在庫であり、買いたくても買えない状況にある、と関係者から聞いた。
コロナ禍による外食や学校給食需要の急滅の影響も大きいが、国が生産調整から手を引いた後の自主的生産調整の限界も露呈してきている。これまで数年不作で表面化しなかったが、根本的には作付けが減ってないツケが在庫に噴出してきている。25-26年産の再来ともいわれている。
コロナ禍がなくともコメの需要減は加速してきている。このままでは、
「需要減の加速→米価下落→自主的生産調整がさらに難しくなり抜け駆け的な販売競争→さらに米価下がる→数年の平均より下がった分(の81%)だけ補填する収入保険では支えきれない→稲作農家の減少が加速し、全国で地域コミュニティが消滅していく」
という流れが加速する。
それを食い止めるには、収入保険の基準収入を固定するとか、最低限1俵1万2千円より下がったら差額の全額を補填するような米国型の不足払いの仕組み(石破元農水大臣が提案していた)を導入し、経営計画に見通しが立つようにすることが不可欠になってくる。
ただ、需要が創出できないとコメが行き場を失う。飼料用米が重要となっているが、畳みかける貿易自由化で畜産の打撃が大きいと、エサ米を食べる家畜が激減していくので、早晩、政策が回らなくなってしまう。
米国やEUは最低限の穀物価格を支えるために政府が在庫を引き受ける政策を続けている。特に米国は、政府在庫の出口として、援助や輸出信用も活用している。多い年には、輸出信用(焦げ付くのが明らかな相手国に米国政府が保証人になって食料を信用売りし、結局、焦げ付いて米国政府が輸出代金を負担する仕組み)でも4000億円、食料援助(全額補助の究極の輸出補助金)で1200億円も支出している。
これと、同じく、実質的な輸出補助金額にあたる不足払いによる輸出穀物の差額補填は、多い年では、コメ、トウモロコシ、小麦の3品目だけの合計で4000億円に達している。つまり、これらを足しただけでも、約1兆円の実質的輸出補助金を使って「需要創出」している。海外向けの需要創出だけで、これだけの予算を投入しているのは我が国(ほぼゼロ)とは比較にならない。
最低限の所得が確保できる差額補填と政府による販売調整=出口対策を、諸外国のように充実しないかぎり、コロナ禍で地域が見直されつつあるといいながら、現実には、農村の疲弊は加速的に進みかねないことを今こそ直視すべきである。「日本の農業は過保護なために衰退した、欧米は競争で成長した」と言う人が多いが、むしろ逆だ。生産者サイドの努力はもちろんだが、消費者も自らの主食を支える消費行動を強化し、国もその果たす責任を明確にし、官民挙げた食料生産・需要(輸出や援助を含む)振興の国家戦略の構築が不可欠であろう。
本コラムの記事一覧は下記リンクよりご覧下さい。
重要な記事
最新の記事
-
「良き仲間」恵まれ感謝 「苦楽共に」経験が肥やし 元島根県農協中央会会長 萬代宣雄氏(2)【プレミアムトーク・人生一路】2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(1)2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間特集】現地レポート:福島県JA夢みなみ岩瀬倉庫 主食用米確かな品質前面に(2)2025年4月30日
-
アメリカ・バースト【小松泰信・地方の眼力】2025年4月30日
-
【人事異動】農水省(5月1日付)2025年4月30日
-
コメ卸は備蓄米で儲け過ぎなのか?【熊野孝文・米マーケット情報】2025年4月30日
-
米価格 5kg4220円 前週比プラス0.1%2025年4月30日
-
【農業倉庫保管管理強化月間にあたり】カビ防止対策徹底を 農業倉庫基金理事長 栗原竜也氏2025年4月30日
-
米の「民間輸入」急増 25年は6万トン超か 輸入依存には危うさ2025年4月30日
-
【JA人事】JAクレイン(山梨県)新組合長に藤波聡氏2025年4月30日
-
【'25新組合長に聞く】JA新潟市(新潟) 長谷川富明氏(4/19就任) 生産者も消費者も納得できる米価に2025年4月30日
-
備蓄米 第3回は10万t放出 落札率99%2025年4月30日
-
「美杉清流米」の田植え体験で生産者と消費者をつなぐ JA全農みえ2025年4月30日
-
東北電力とトランジション・ローンの契約締結 農林中金2025年4月30日
-
大阪万博「ウガンダ」パビリオンでバイオスティミュラント資材「スキーポン」紹介 米カリフォルニアで大規模実証試験も開始 アクプランタ2025年4月30日
-
農地マップやほ場管理に最適な後付け農機専用高機能ガイダンスシステムを販売 FAG2025年4月30日
-
鳥インフル 米デラウェア州など3州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入停止措置を解除 農水省2025年4月30日
-
埼玉県幸手市で紙マルチ田植機の実演研修会 有機米栽培で地産ブランド強化へ 三菱マヒンドラ農機2025年4月30日
-
国内生産拠点で購入する電力 実質再生可能エネルギー由来に100%切り替え 森永乳業2025年4月30日
-
外食需要は堅調も、物価高騰で消費の選別進む 外食産業市場動向調査3月度 日本フードサービス協会2025年4月30日