(202)Going Local【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2020年10月16日
WHO(世界保健機構)によれば、新型コロナウイルス感染症による世界の感染者数は3742万人、死亡者数は107万人と報告されています。欧州各国では夏場に低下していた新規感染者数が再び増加中です。農産物収穫時期は日本とは多少異なりますが、収穫作業の人手不足問題が各所で深刻化し、農業労働力を他国に依存しグローバル化した農業がまさに試練の時を迎えていると言っても良いでしょう。
1990年代前半、米国に留学した当時はグローバル化が日の出の勢いであった。周囲の多くがグローバル化に関心を持ち、ビジネス・スクールではグローバルを看板にした科目が複数存在しただけでなく、個別企業の次元でも、いわゆるグローバル企業が脚光を浴びていた。
その当時読んだ冊子に"Going Global"というハーバード・ビジネス・レビューの論文集がある。1991年出版であり当時は興味深く読んだものだ。実際、刺激的な論文が多かった記憶がある。
四半世紀後の2017年、ほぼ同じタイトルのケースがハーバードで作られた。正式タイトルは"AKB48:Going Global?"である。ビジネス・モデルとしてのAKBのグローバル化に注目してケースまで作るところは流石に面白いが、感覚としてAKBの全盛期は2017年よりはるかに前だ。恐らく2010~13年頃ではないかと思う。私は別にファンではないが、職業柄大学生と接しており、どの代の学生達が一番AKBに夢中になっていたかを考えるとそうなる訳だ。
その意味ではハーバードのケース作成は正直遅いとも思ったが、Going Globalと言う意味では日本でのピークが過ぎた数年後で良いのであろう。Wikipediaで確認すると、ジャカルタ(JKT48)が2011年だが、その後はタイ(BNK48)が2017年、フィリピン(MNL48)、中国(AKB48 Team SH)、台湾(AKB48 Team TP)、ヴェトナム(SGO48)が2018年、タイのチェンマイ(CGM48)とインド(DEL48)が2019年から活動を開始している。
2017年にケースが作られたのは、日本のアイドルの国際進出という視点から見れば極めて妥当だったのかもしれない。それでも、本家の日本にいて初期メンバーくらいならほとんどわかるが現在は全くわからない身からすると、どうしても微妙な時間差を意識せざるを得ない。これが普及のタイムラグというものである。
ところで、世界史が教えるところによれば、ヨーロッパの人口には大きく4回くらい急増した時期と、その後の停滞時期があるようだ。最初は9~12Cまで増加し、その後停滞した後にペストに襲われてさらに1世紀ほど停滞している。2度目の増加は15~16C、そして17Cに停滞、3度目は18C半ば以降に増加し20世紀前半からしばらく停滞している。3度目の停滞の原因の1つは2度の世界大戦だ。最後の4回目だが、これは第二次大戦後、現在に至るまで続いているが、いつまでかはわからない。
これら4つの人口増加の時期の詳細は割愛するが、1つだけ興味深い点を指摘しておきたい。人口が急速に増加するということはある程度までは生活に余裕が生じることに概ね等しい。つまり、我々が中学や高校の歴史で習った有名な文学や芸術、学問などが意外と花開く。
もちろん例外はあるが、現代の我々は伝統的な芸術とは別にインターネットやヴァーチャル・リアルティなどで、後世から見るとあの時代にこれが普及した...と言えるものを体感している可能性がある。AKBのGoing Globalもハーバードのケースでは最後に「?」がついている。人であれ、モノであれ、世界に通用するグローバル商品とは何か、という戦略的な問いが隠されている訳だ。
一方、グローバル化には、新型コロナウイルス感染症の蔓延や、ネットワークを通じた個人情報の漏洩など、従来とは異なるレベルのリスクが確実に存在していることも明らかになっている。これらをどこまでバランスよく扱えるかは筆者にもわからない。恐らく、少し速度を落とし、Going Localで考えてみるのが良いかもしれないと思うだけである。
* * *
広い意味で日本のグローバル化を1990年代以降と見れば既に30年です。この間、日本農業はグローバル化の流れの中で本当に頑張ってきたと思います。新型コロナウイルス感染症はまだ終息していませんが、こういう時こそ落ち着いて、次の世代へ本当に何を残すかを考える、Going Localの良いタイミングかもしれません。
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三石誠司・宮城大学教授のコラム【グローバルとローカル:世界は今】
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