赤いワクチンの教訓【森島 賢・正義派の農政論】2021年3月8日
60年前、ポリオ(脊髄性小児マヒ)ウィルスが世界を蹂躙した。ワクチンもなく、特効薬もないなかで、子供たちが次々と感染し、重篤になっていった。ようやくアメリカとソ連がワクチンを開発し、世界中の国々が、その争奪戦を繰りひろげた。
アメリカのワクチンは輸出余力が小さく、ソ連は輸出余力があった。当時は、東西冷戦の真っただ中にあって、日本はアメリカ陣営に属していた。しかし、だからといって、ソ連のワクチンを「赤いワクチン」などと揶揄し、忌避してはいられなかった。
そこで、幼い子供をかかえた若いお母さんたちが立ち上がった。そうして、ソ連のワクチンの輸入を政府に要求した。この要求に対して、厚生省の官僚たちは、法律を盾にし、いろいろな難癖をつけて拒否した。
これを見かねた古井喜実厚生大臣は、「責任はすべて私にある」といって、超法規的にソ連のワクチンを輸入し、接種した。そうして、ポリオをまたたく間に終息させた。
60年経ったいま、あの時の教訓は忘れてしまったようだ。
上の図は、ポリオ患者数の当時の推移である。古井大臣が決断して、全国で一斉投与を始めたのは、1961年7月20日だった。その直後から患者数が見事に激減し、ぶり返すことなく、絶滅した。1981年以後、新規患者数はゼロになった。
これは、歴史に燦然と輝く快挙ではないか。そして、日本が世界に誇る、感染症対策の模範例ではないか。
そして、これは、今度のコロナ対策にとって、貴重な教訓になるだろう。だが、いまの政治は、これを教訓にしていない。
◇
60年前と今とで、どこが違うのか。
成功の原動力になったのは、お母さんたちの子供に対する深い愛と、対策に対する強い要求だった。そして、それを結集して政治力に組織した力だった。
その結果、当時の最大政治勢力である労組の力も巻き込んだ。国民の命をコロナから守ろうとして、医療の最前線で献身的な努力を重ねている医師や看護師たちの、政治に対する要求も、強い力になっていた。
60年前の日本は、そういう社会だった。社会に、若いお母さんなど、若者を中心にし、連帯して政治を動かす力が漲っていた。そういう活力に満ちた社会だった。
だが、今はどうか。社会のいたる所に分断が走っていて、活力のある政治勢力がない。せいぜい、SNSで鬱憤を晴らしているだけで、政治を動かす力になっていない。
◇
今を60年前と比べた、もう1つの違いは、古井大臣のような政治家がいないことである。国民の命を守るためには法規をも侵し、「責任はすべて私にある」という覚悟を持った政治家がいない。そうして、心ある官僚を感服させる政治家がいない。
今は、凡庸な政治家ばかりで、だから、官僚の言うままになっている。そうして、責任を官僚に押しつけ、自分で責任を取ろうとしない。
◇
さらに、60年前には、国民の命を守るためのワクチンを入手するためには、仮想敵国であるソ連にも頭を下げることも厭わない。そういう腹の据わった政治家がいた、しかし、今はいない。
今は、ワクチンの国内生産が遅れ、ワクチンの国際的な争奪戦で立ち遅れ、その結果、ワクチン不足で接種が遅れ、国民のコロナ禍を長引かせている。それなのに、同盟国であるアメリカの不快さを忖度しているのか、中露のワクチンに見向きもしない。
一方、野党は国会で、国民の最大の関心事であるコロナ対策の議論を隅へ追いやり、政府や与党の不祥事を暴くことで、国民の支持を得ようとして、しかし、失敗している。
◇
こんなことでは、たといコロナが終息しても、社会の腐朽は止められないのではないか。
コロナは、日本社会の恥ずべき暗部を曝け出したのである。この暗部は、コロナと共に、日本の社会から消し去らねばならない。そうして身も心も清浄にし、今後10年以内に再び来襲するという新々型コロナを迎え撃たねばならない。
(2021.03.08)
(前回 栃木県がコロナの本格的な調査を始めた)
(前々回 農村と都市のコロナ)
(「正義派の農政論」に対するご意見・ご感想をお寄せください。コチラのお問い合わせフォームより、お願いいたします。)
重要な記事
最新の記事
-
【米価高騰・今こそ果たす農協の役割】農協は農家のインフラ 急がれる「備蓄米買い上げ」 神明・藤尾益雄社長インタビュー(下)2025年10月23日
-
現場の心ふまえた行政を 鈴木農相が職員訓示2025年10月23日
-
全中会長選挙を実施 12月に新会長決定 JA全中2025年10月23日
-
花は見られて飽きられる【花づくりの現場から 宇田明】第71回2025年10月23日
-
続・戦前戦後の髪型と床屋・パーマ屋さん【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第361回2025年10月23日
-
「ゆるふわちゃんねる」登録者数100万人突破 JAタウンで記念BOXを限定販売 JA全農2025年10月23日
-
愛知県の新米「愛ひとつぶ」など約50商品「お客様送料負担なし」で販売中 JAタウン2025年10月23日
-
人気アニメ『ゾンビランドサガ』とコラボ「佐賀牛焼肉食べ比べセット」販売開始 JAタウン2025年10月23日
-
佐賀県発の新品種ブランド米「ひなたまる」デビュー記念 試食販売実施 JAグループ佐賀2025年10月23日
-
AI収穫ロボットによる適用可能性を確認 北海道・JAきたそらちと実証実験 アグリスト2025年10月23日
-
西欧化で失われた日本人の感性や自然観とは? 第2回シンポジウム開催 2027年国際園芸博覧会協会2025年10月23日
-
GREEN×EXPO 2027で全国「みどりの愛護」のつどいと全国都市緑化祭を開催 2027年国際園芸博覧会協会2025年10月23日
-
食とエネルギーの自給率向上と循環型社会の実現に向けた連携協定を締結 パソナ、ヤンマー、Well-being in Nature2025年10月23日
-
栃木県「那須塩原牛乳」使用 3商品を栃木県内のセブン‐イレブンで発売2025年10月23日
-
都市農地活用支援センター 定期講演会2025「都市における農空間の創出」開催2025年10月23日
-
岩手県山田町「山田にぎわい市」26日に開催「新米」も数量限定で登場2025年10月23日
-
ニッテン×QuizKnock コラボ動画を公開 日本甜菜製糖2025年10月23日
-
北海道の農業法人25社以上が出展「農業法人と求職者のマッチングフェア」開催2025年10月23日
-
福岡市で「稲刈り体験」開催 グリーンコープ共同体2025年10月23日
-
被爆・戦後80年 土浦市で被爆ピアノの演奏と映画上映 パルシステム茨城 栃木2025年10月23日