未検査米の扱いで議論百出になったWeb情報交換会【熊野孝文・米マーケット情報】2021年5月25日
「未検査米を持ってくる生産者に『銘柄証明書を持って来てくれ』と言うようになれば、コメが集荷出来なくなるんじゃない」という発言があった。これは先週末にWeb上で開催された米穀業者の情報交換会で関東の集荷業者が言ったことだが、これはほんの一例で農産物検査規格の改定は、これまでの方法とはあまりにも違うことが盛り込まれたこともあって、現場の実態とは遠い世界のことのように映っている。
Web上で開催された情報交換会では、コロナ禍の緊急事態宣言で回復しかけていたコメの販売が急激にダウンするなど販売業者から深刻な事態が伝えられた他、業務用の売り先を失ったコメが考えられないような安値でスーパーの売り場に並んでいると情報が伝えられる。その一方で、産地サイドでは肥料の値上げに加え、その他資材も値上がり、米価がこのままではコスト割れになってしまうなど、産地、消費地とも苦境に立たされているという情報ばかりが伝えられた。だが、それ以上に話題が沸騰したのが農産物検査規格の改定で、まさに議論百出という状況になった。
最初に取り上げられたのが「未検査米」の扱い。なにせ7月から検査を受けなくても精米商品に銘柄を記載できるようになるのだから、コメ業界にとっては大問題。制度上は検査米、未検査米と言う括りは無くなるのだからまさに大変革と言っても言い過ぎではない。
未検査米とは何かというと文字通り検査を受けていないコメのことである。その数量がどのくらいあるのかは生産量から検査したコメの数量を差し引けば出て来る。2年産米の生産量は723万トンで、これに対して今年3月末現在で481万トンが検査を受けているので、差し引き215万トンが未検査米の量になる。この中には生産者の自家消費や無償譲渡、種子に使用される分も含まれているが、大変大きな数量であることには違いない。
取引の現場では未検査米は、千葉県産コシヒカリ未検という売り玉を出した場合、検査米に比べ玄米60キロ当たり1000円安と言うのが相場である。なぜならこれまでその未検査米を買って袋詰め精米してもコシヒカリとしては販売出来なかったからである。それが7月から未検査米でも精米袋にコシヒカリと表示して販売出来るようになる。Web上の情報交換会でも精米販売を主体にしている業者から「今後は未検査米の仕入れに力を入れる」という発言もあった。ただし、現実にはそれほど簡単なことではない。農水省の改正方針では「現在の目視鑑定を必須とする方法を改め、農業者等から提出される 種子の購入記録、栽培記録等の書類により審査する方法に見直す」とされているが、実際にこれを行うとどうなるのか予測した業者がおり、その業者は「未検査米の銘柄を担保するためには書類やトレサ法の定められた手順を踏まなくてはならず、手間とコストがかかる。検査米を仕入れた方が安上がり」と述べた。それ以前になぜ農家は集荷業者に未検査米も持ってくるのかという事がある。そうした農家にトレース出来るような書類の提出を求めても首を縦に振らないだろうというのが、冒頭に記した業者の発言である。
未検査米の扱いの問題はこれだけではない。検査を受けていないのだからその品位をどうやって担保するのかという問題が出て来る。これまでは未検査米は「1~2等格」と売り手が言えば、長年の商習慣で検査一等米に比べ1000円安と言う暗黙の格差で取引されていた。しかし今後は、制度上は未検査も検査も変わらない扱いになるのだから、品位を担保するものが必要になる。それが穀粒判別器で、画像解析したデータを未検査米に張り付ければ良い。それをシステム的に構築しようというのが「スマート・オコメ・チェーン」で、これがまた凄い。スマート・オコメ・チェーン及びこれを活用したJAS規格について、コンソーシアムで検討を進める際は、以下の事項に留意するとし
(1) タンパク含量等の食味に関連する情報や米と健康に関する情報、品種 情報など、消費者が重視する情報がスマート・オコメ・チェーンで取り扱う情報に含まれるようにする。
(2) 穀粒判別器フル活用の観点から、スマート・オコメ・チェーンへの穀粒判別器のデータ蓄積・活用を積極的に進める。
(3) 生産者等によるデータの入力や管理に係る負担軽減の観点から、スマ ート・オコメ・チェーンにおいては、スマート農業機械、乾燥調製施設、穀粒判別器等から得られる情報を簡単に取得・連携できるよう、企業間の連携を進める。また、有機JASなど関連する情報をリンクできるよう検討する。
あまりにも凄すぎるので以下は省略するが、これが実現したらコメの世界は変わってしまう。
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