【浅野純次・読書の楽しみ】第63回2021年6月17日
◎大塚英志『「暮し」のファシズム』(筑摩選書、1980円)
3度目の緊急事態宣言で、小池都知事は「夜8時以降の消灯」を訴えました。戦時中、近所のおじさんたちが窓越しに「光が漏れてますよ」と注意して回っていた一幕が蘇ったものです。「新しい生活様式」の提起にも戦時下を思い起こしたお年寄りが多かったのではないでしょうか。
準戦時・戦時体制は「生活」や「日常」の顔をして語られる、というのが本書のいちばん言いたいことでしょう。「ぜいたくは敵だ」とか「欲しがりません、勝つまでは」などのスローガンや自粛、節約、共用などの同調圧力は、「蔓延防止」のもとで個が押さえ込まれる世の中と瓜二つではないか。著者はそう警告を発しています。
間接的にではあれ公権力が私たちの生活に介入し、暮らし方のモデルを国民に押し付けていく時代の風景。それは1940年の第2次近衛内閣による「翼賛体制」とともに花森安治や村岡花子、太宰治、長谷川町子らによって国民の中に浸透していきました。
暮らしのファシズムはまさに、それと気づかぬうちに広がっていったのです。今、そのようにして「個」が崩されつつあるのではないか。著者の緻密な調査に基づくそんな警告には、しっかりと向き合う必要があると感じさせられる力作です。
◎名越健郎『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ、990円)
欧米では政治ジョークが盛んです。とくにロシアのアネクドート(小話)は秀逸なのが多い。本書はパンデミックはじめ世界の政治がらみの小話を集めたもので、面白くて気分転換に好適です。
いくつか拾ってみましょう。「コロナウイルスがパンダ起源だったらpandamic」「アルカイダとコウモリの共通点は? どちらも暗い洞窟に潜伏し米本土攻撃に成功した」「米国で新型コロナ感染者が爆発的に増えるとメキシコの大統領がトランプ大統領に電話して言った。国境の壁の完成を急いでほしい」「BC(紀元前)は今、〈コロナ以前〉を指す」
オバマ、バイデン、トランプ、プーチン、習近平などたくさん登場します。日本の政治家も少々。権力をジョークで笑い飛ばせば対等の関係になります。
政治ジョークは日本では未発達ですが、政治川柳があります(新聞では朝日朝刊が抜群です)。ジョークや川柳は庶民の武器であり、そこでの批判精神は民主主義にとってとても大事です。本書でどうぞ楽しんでください。
◎原田マハ『モネのあしあと』(幻冬舎文庫、550円)
日本人が好きな印象派の中でもモネは格別です。アート小説で人気の著者によるモネの人生と作品の解説は、まさに簡にして要を得るの感があります。
最初にモネの生きた新しい時代、印象派絵画の新しさが語られます。私たちにとってはもはや普通と言ってよい印象派の絵画は、当時においては革命的であったことがよくわかります。単に「印象の赴くまま」に描いただけの絵画ではもちろんなかったのです。
モネの人生も波乱に満ちたものでした。とくにジヴェルニーに住み着くまでの物語からは、今、私たちがあの庭を訪ねることができるのは大きな偶然と幸運の賜物だということを読者は十分納得することでしょう。
オランジェリー美術館にある睡蓮の大作の鑑賞の仕方についての一節も著者ならでは。訪れる機会はなくとも著者お薦めの条件で行った気分になって楽しめるはず。薄手だけれど印象派好きには見逃せぬ一冊です。
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