誰のために、誰と戦う知事かい?【小松泰信・地方の眼力】2021年9月8日
「生きている人間は、乞食も大統領もいっしょや。どんな世界に生きていても、みんな〝生きるプロ〟やと思う。気持ちを分け合って、助け合うことが大切なんちゃうのかな」(木村充揮(あつき)・「憂歌団」ボーカル、「サンデー毎日」9月19日号)
「共に闘う知事会」を目指す平井新全国知事会長
全国知事会は8月30日、新会長に平井伸治鳥取県知事を正式に選んだ。任期は9月3日から2年間。全国的な感染拡大が続く新型コロナウイルスへの対策が当面の重要課題となる。全都道府県のうち最も人口が少ない県からの会長就任は初。過去最多となる40道府県知事からの推薦を受け、無投票での会長選出。
地元の日本海新聞(9月3日付)によれば、平井知事は、9月2日の定例会見で「(政府と)闘う知事会ではなく、政府を巻き込み、いろいろな組織と連帯しながら、『共に闘う知事会』に変えていく必要がある」と意欲を語り、9日には知事会業務を担う連携調整本部を県庁内に立ち上げるとのこと。
さらに、「米国の知事会を例に挙げ『自ら情報発信し、提言活動をしながら、影響力を持っている。わが国も同じことができるはずで、現場で得た情報を基に関係団体と結び付きながら世の中を変えたい』と説明。まずは新型コロナ対策に総力を結集する考えを示し、『政府に要求すべきことはきっちり要求する。医療界や経済界にもパイプを広げ、その後の経済社会を立て直す道筋を付けていかなければならない』と強調」し、「(コロナで)全知事がお互いに共通の仕事をしているという認識が深まった。関係方面へ諮りながら、トップリーダーの組織改革も踏み出したい」と、新しい組織体制の構築を検討していることも明らかにした。
地方分権の理念を忘れるな
西日本新聞(9月1日付)の社説は、「地方を代表する組織として、まずは新型コロナ禍対策が最重要課題となる。国と対等な立場で、是々非々の議論」を強調する。
ただ、「昨年2月、当時の安倍晋三首相が学校の一斉休校を唐突に要請し、学校や保護者は混乱した。都道府県や市町村立の学校を休校にする権限は首相にはなく、地方にある。にもかかわらず、知事をはじめ大半の首長、教育委員会は検討に時間をかけることなく唯々諾々と従った」ことを指摘し、「『地方でできることは地方に』という言葉に象徴される地方分権の理念が、コロナ対策で薄れてはいないか」と、警鐘を鳴らす。地方分権を取り戻すためにも、「知事の権限でできることは着実に進めたい」と、現場での行動力に期待する。
さらに「国と地方の関係は2000年の分権改革で、上下・主従から対等・協力に変わった」にも関わらず、「第2次安倍政権以降、一昔前の中央集権に戻ったような政治手法が目立つのに、地方からの異論があまり聞こえてこないのは残念だ」と嘆息する。
2000年代の「闘う知事会」が、「今や陳情団体に先祖返りしたとの批判がある」ことを紹介し、「コロナ対策に限らず、分権改革の理念を再確認し、活動の礎」とすることを新会長に期待している。
示せ!地方の存在感
中国新聞(9月7日付)の社説も、「国と対等な立場で議論し、地方分権の理念を着実に実現しなくてはならない」とする。
そのためにも財源の問題を指摘する。コロナ禍において、感染対策の指揮を執る知事の発言力は強まったものの、「使える財源は、国の地方創生臨時交付金が中心で、国が示したメニューから対策を選び、都道府県が実施計画を提出する必要がある。ところが政府与党は国会を開かず、新しい対策を広く議論することに及び腰」という情けない状況。
これを打開すべく、頻繁にオンライン会合を開いて、要望や提言を重ねて国に実現を迫った。そして、「休業要請に応じた事業者への協力金についても、臨時交付金の大幅増額を勝ち取るなど実績も残した」ことを紹介し、その機動力と積極性を評価する。
そのうえで、「住民に近い市町村の声をくみ取る役割」を果たすことで、「『ポストコロナ』を見据えた地域経済の再生や東京一極集中の是正など、あらゆる課題で地方の存在感を発揮してほしい」と期待を寄せる。
見直すべき財源の配分と役割分担
山陰中央新報(9月7日付)の論説も財源問題を指摘する。「コロナ対策を巡っては昨年、都道府県が自らの基金を使い独自対策を進めた第1波の頃は、東京都や大阪府などで一定の成果を上げた。その後、基金が急減し、国に予算を頼るようになって独自の取り組みは下火になってきたと分析」し、「営業時間短縮に協力した飲食店を国が示す基準よりも手厚く支援するには自主財源が必要となるが、税収の減少もあり厳しい。予算不足が独自対策を阻んでいるのである。知事会は自治体の工夫をより生かせる仕組みを国に求めるべきだ」とする。
さらに、「自治体の方がよりアイデアも柔軟性もある」が、「国は刻々と変わる事態に対処するのは苦手のようだ」として、「全てを決定できるという幻想は捨て、地方に対策を大幅に任せ、国はコロナの水際対策、ワクチンや治療薬の開発、確保に集中する」ことを提案する。
頓馬な知事へのアドバイス
「都道府県知事は、新型コロナ対策の最前線に立つ地域の司令塔だ。(中略)共通する課題を臨機応変に集約し、現場の実態を踏まえた対応を政府に強く求めるのも重要な責務である」で始まるのは、朝日新聞(9月7日付)の社説。
平井氏が、政府と闘うのではなく、コロナという共通の敵に対し、政府をはじめ、さまざまな組織と連携して「ともに闘う知事会」を掲げたことを取り上げ、「国との協働は大切で、いたずらに対峙(たいじ)する必要はないが、自治の観点から、言うべきことは言う姿勢も忘れてはなるまい。コロナ対策に限らず、人口減少や自然災害、気候危機への対応など、さまざまな課題について、地域の主体的な活動を支える役割が求められる」として、政府との協調路線を突き進むことにくぎを刺している。
コロナ禍やオリ・パラに関連して、普段は知る機会の少ない知事の顔や発言を知ることになった。ほとんどの知事は、政府や当該都道府県選出の大物国会議員らに睨まれないよう、その顔色を気にしながらの当たり障りのない言動であった。
しかしコロナ禍やオリ・パラ狂騒曲は、彼ら彼女らが私利私欲の塊で、決して顔色をうかがうべき相手ではないことを明らかにした。それでも、まだ気づかぬ知事も少なくないはず。
そんな頓馬な知事には、誰のために、誰と闘うべきかについて、市井の〝生きるプロ〟に学ぶことをおすすめする。
「地方の眼力」なめんなよ
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